読者・視聴者は甘くない
運営者 取材対象者は利益を得るためにジャーナリストと付き合っておこうと考えている人が十中八九だと思うんです。しかし、われわれとしては読者の利益を常に考えているわけで、われわれの利益はそこにしかないわけです。この誤解を何とか解くことができないかな。
神保 「あんたに得になることを話してるんだから、こちらにもリターンしろ」とジャーナリストに迫る態度ですね。
運営者 それは、商売としては正しい態度だと思うんです。でもジャーナリズムは商売とは一線を画しているんだ。ジャーナリストの客は取材対象者ではなくて、あくまでも社会一般の人であるんだという認識をどうしても持ってもらえない。
神保 それはね、こちらとしては誠意は尽くしますけど、「取材対象者はお客さんじゃないんだから、関係ない」としか言いようがないですよ。われわれは不誠実なことはしませんが、向こうが誤解しているのは僕のせいではない。「われわれの間には相互依存関係はないわけで、あなたには何の恩義も感じていないんですよ」というふうに一時間話しても仕方がないですからね。
運営者 僕はそれをやったことがあるんですよ。
神保 そうなの(笑)。
記者のインタレストから考えれば、取材対象者との関係が悪くなるということは全然問題ではないわけで、「あいつは汚い奴だ、嘘をついた」と思われるのは困ります。そこには一線があるのですが、「油断ならない記者だ」とか、「容赦がない記者だ」と言われるのは褒め言葉だと思う。
だって僕らは記事をもってのみ評価されるわけであって、取材対象者との関係は二次的なものなんです。「あの記者はとっても優しい取材をしてくれる」なんて言われた日には恥ずかしいよ、まったく。
運営者 ジャーナリストの仕事の特殊性は、目配りの方向が2つあるということだと思います。つまり読者や視聴者がプライオリティが高いのですが、しかし第一義的に相手をしているのは取材対象者なわけです。でありながら、仲介業者のように2つの立場の利害調整をしているわけでもないというのがこの仕事の際立った特徴だと言えますね。
神保 取材対象者に対しては、「汚い記者であったと思われなければいい」ということですが、視聴者というのはそこまで甘くはないわけです。うそつきでないのは当然として、同時に情報がおいしくなければ買ってくれないわけですから。そこに市場原理があります。極言すると取材対象者に対しては、パブリックではなくて、舞台裏の基準があるわけ。舞台裏同士の関係であるから、パブリックとの間にあるものとは違う関係が必要なんです。そこで重要なのは、舞台裏の世界で「彼は汚い奴だ」とうわさが立ってしまうというのは非常に問題でしょう。そういう2つの基準を明確に持つ必要があるでしょうね。