良い空中ブランコ、悪い空中ブランコ
織田 聡氏
運営者 実はね、今日サーカスを見に行って、空中ブランコを見てたんですよ。それを見ていて思ったのは、「ああ、これ、僕じゃないか」と思ったんです。
空中ブランコというのは、横で見ていると、非常に危険に見えるけれども、実は全然危険じゃないんですよ。つまり、「自分の体力や自分の経験でできる範囲はここまでかな。それで、自分の体調は今日はこんな感じだし、そうするとこの演技はできるけどこの演技はできないな」ということがわかるわけじゃないですか。「そうしたらこのリスクまでは取れる」と。それは非常に計算されたリスクを取っているわけでして、実は彼らにとっては「安全」の領域に入ることなんです。しかもその上で命綱を付けていたり、下に人がいたり、いろんな形でセーフティーネットも十分に準備されているんです。
ところが、側から見ている人は非常に危険に見える、そのスリルを楽しんでいるわけです。
僕は多分、空中ブランコには、良い空中ブランコと、悪い空中ブランコがあるんだと思います。
まともな空中ブランコというのは、無理をしないから実は安全なものなんですよ。一方で、それを見ていて「ああ、こういうふうにやればいいんだ」と、なんの経験もなく知識もなく案内もなく判断力もない素人衆が単純にリスクだけをとると、本当に危険なものになると思うんです。
で、人は仕事をずっとやっていくことによって、「自分がどこまでリスクをとることができるか」ということを身につけていくし、判断能力もそのようにして身に付いていくわけです。
織田 ええ、判断力が身につけば、転職に関しても「自分がどこまで動けばいいか」ということも身につくし、自分が動ける範囲の中で、現在自分が勤めている会社のポジションよりは良い選択肢があるならば、移籍すればいい。
だけど、転職のリスクを取るときに、会社を空中ブランコに例えると、ブランコから手を離さない人がやっぱり多いですよね。ブランコから手を離せなくて、結局ブランコにだらっとぶら下がるわけです。そのうちにフランコが止まっちゃって、だんだん手がしびれてきて結局は下に落ちてしまう。
でも、ブランコから手を離して飛ばない間は、一応給料がもらえるし、自分を受け容れてくれる子会社も、どこかあるだろうし。
運営者 うーん。今の大企業ではリストラも一段落し、「これ以上リストラしなくてもよい」という会社も出てきています。「ではこれで安心、企業は安泰」かというと全然そんなことはなくて、今度はまったく新しいライバルが現れてくる。しかもそれが、今まで自分たちがつくってきた秩序やルールと違うところでの競争を仕掛けてくるんですからね。それがインターネットを介しているケースもあるわけです。
織田 今後のライバルというのは、今現在見えているライバル企業ではなくて、周辺部分、あるいは他業界から出てくると見た方がいいでしょうね。
運営者 だから、「これ以上リストラをやる必要がなくなった」と言っても、安心するわけにはいかないわけです。むしろこれまでより状況は断然厳しくなってきている。現実はね。