纏足・ポトラッチ・共同幻想
織田 聡氏
織田 それが日本軍の悪いところを受け継いちゃった点ですよ。自分で判断をするような人間を疎外しているわけですから。
運営者 その態度には、戦略的意思決定とか組織的学習などというものはかけらも見られませんね。「今ここにあるものが、また未来永劫続くのだ」ということを前提にして、その中でひっそりと何も変えることなく息をしていく能力を身につけさせるのがOJTというものなんですね。まったくありがたいことだ。
それが職場文化としてあるのだから、それが染みついている社員としては当然、「自らに対する投資を行う」などという観念など持つことはないし、ましてや「そんなこと考えるのは恐ろしいことである」とすら思っているでしょう。
織田 逆に、そういう態度は秩序に対して反旗を翻しているようなものですからね。
運営者 「そんな投資をやる暇があるんだったら同僚と飲みに行け」と。
織田 ある大企業のケースですが、週のうちの3、4日ぐらい同じ仲間たちと飲みに行くということさえあるんだそうです。そうするとだんだんお金がなくなくるので、今度はカードローンの残高を競い合うというところまで行ってしまう体質の会社があって、あまりにそれがひどいので逃げ出してきたという人すらいますよ。
運営者 ひどいですね。 何で金借りてまで同僚と飲まなければならないでしょうか。
織田 ポトラッチですよね。
運営者 にしては、せこすぎますよ。あれは破滅的な互酬的贈与のことで……限りなくポトラッチに近いか……。じゃあインディアンの風習ですよ。
織田 ビジョンを共有していない会社の場合は、一緒に共有している時間をもって人を束ねているわけですね。ビジョンや目標で社員を糾合することができないからです。だから外の世界は見せないでおいて、「ここが一番いい世界なんだよ」と言って共同幻想を吹き込むことで結束を何とか維持しているわけです。
運営者 北朝鮮みたいだな。ゴールディングの『蠅の王』なんて、そうなんですけど……。
共同幻想の世界がいかに尋常ならざるものであるかということを告発するような芸術作品が、海外では受けると思うんですけどね。日本では、ひたすらに一緒に堕ちていって、最後に無理心中するというのが恋愛もののパターンとしてもはやされていると。、
織田 で、週のうち3回も4回も同じ人間と同じような話をして、飲んだくれているうちに頭の中はどんどん退化していくし、気がついたときには転職ができない年齢になっちゃっているわけです。また、その時には、普通の社会の人間の言ってることを理解する言語能力もなくなっているわけですよ。
運営者 恐ろしいことですね。それで、社員をそのようにスポイルしていた大企業の方も平気であるということも、人材戦略としてまったくもって考えられないことですよ。纏足みたいな感じですよね。
織田 そのように社員の視野を狭めておいて、10年ぐらい前までは、「しかし雇用は保証する」という反対給付はきちんとやっていたかもしれないけれど、いまや纏足させておきながら、いざという時になると責任を負わないわけでしょう。