ハインリヒ・シュリーマンの自己投資術
織田 聡氏
織田 そうしますとね、僕なんか「尊敬する人間は?」と聞かれると、ハインリヒ・シュリーマンですと答えるんですよ。それはなぜかというと、尊敬できる点が2つありまして、ひとつは幼少期の夢を忘れなかったということ。でもそれだけだったら、そんな人はごまんといるわけですよ。
ぼくが彼が偉いと思うのは、その夢を実現するために、現実社会を理解して、現実世界で財を蓄えるために必要なスキルを日々を怠りなく蓄えていったということなんです。
運営者 まず言葉でしょう。確か17カ国語を話せたはずですよね。それから商売の知識。
織田 彼の『古代への情熱』から何を学ぶかというと、僕は、単にトロイの遺跡を掘り返しただけでシュリーマンがすごいと思っているんじゃなくて、トロイの遺跡を掘り返すためには大変なお金が必要なわけです。国家はあてにできない、じゃあ自分でお金を作るしかない、そのために何をするべきか……、ということを緻密に計算して、気が遠くなるような作業をひとつひとつ片付けていった、それは僕はすごく尊敬に値することだと思うんです。
日々とることができる選択肢というのには限りがあると思うんですけども、それを有効に行使しない限り何事もなすことができない。でも、逆に言うと日々できることをコツコツやっていくとすると、10年、20年かければものすごく大きなことができるのではないでしょうか。でも、今日何もしなければ、将来も何も生まれないんです。
運営者 なるほど、確か彼がトロイの発掘に取り掛かったのはかなり年を取ってからでしたよね。
織田 引退してからなんです。だから僕は、「目標を実現するためには何が必要か」ということを考えた上で、自分にとって日々とることができる選択肢を行使してほしい。あるいは選択するべきことを決めて、実行してほしいと、すべての社会人に対して訴えかけたいですね。
それこそが、さっき申し上げた投資につながるわけです。将来実を結ぶかどうか、それはわからないけれども、何かあることをなさない限り、人は会社の奴隷でしか存在し得なくなるんですよ。会社の中でマスゲームをやらされているのと同じになっちゃうわけです。
だから、たとえ奥さんが転職にに反対しようが、やっぱり自分の将来にとって大事だと思ったら、それはやるべきだと思う。僕の妻は幸いにしてそれはなかったけど、「奥さんが反対するから転職ができなかった」と言う人はあまりにも多いんです。
運営者 僕がよく聞かれるのは、大企業からベンチャーに転職する人は非常に多くて、結局今の状態では辛酸をなめているケースが多いわけですが、「こんな状況で大企業からベンチャーへの転職を奨めていいのか」、と言われるんです。
でもね、「この流れは止まらないから、潰れるカイシャにいるのであれば転職した方がマシですよ」ということはある。ただし、それは自分の能力を考えて、転職先の会社が今後伸びそうか、その中で自分が力を発揮できるかどうかを総合的に勘案して、なおかつ私転職した先の会社がうまくいかなかったとしても、そこで身につけた能力を他でまた発揮できるように、自分が転職することによって何か得ることがあるような転職であればいいというふうに思うんですけれど。
織田 同感です。自分自身が労働市場の中で価値をつけることができるのであれば、転職した先が潰れてもいいじゃないですか。
僕は今カーポイントという会社に来て、僕自身はこの会社を成功させたいと強く望んでいます。それでもし成功したとして、ある人が「カーポイントに入りたい」と望んで来たとしましょう。その人が、自分で起こしたネットベンチャーがうまくいかなかったという場合、「どんどん来てください」と言いたいですね。そういう選択肢を行使してベンチャーを起業した、あるいはベンチャーに転職したというその心意気と、そこに至るまでのギリギリの意思決定力を評価したいんです。
もちろん能力が一番重要であることは言うまでもありませんが。能力がもし同じような感じであれば、ずっと大企業にいた人よりは、リスクを取って行動した人を僕は評価したいし、僕も将来そういう目で評価してほしいなと思いますよね。
運営者 そのような人材評価の選択の傾向のことを僕は平たく「あのバカにやらせてみよう」と書いたんですけどね。
織田 僕も、NKKに一緒に入った同期の人たちからするとバカに見えるかもしれません。今の会社で4社目ですし。でも僕自身は、動きのある良い人生を送っているなと思いますよ。
運営者 織田さんのケースはそうだと思いますよ。ところがね、はた目から見ても、「この転職は違っているだろう」というような種類の転職をする人がいることもまた事実です。前職での経験や、彼の持っている能力や性格、行動のパターンを総合的に考えるに、「これは無理だろう」というような。そこは本人がそのような判断をする能力を持っていなかったということであって、そういう無理な選択をする人はいるわけです。それをして「ネットベンチャーへの転職はけしからん」と言われるわけですが、果たしてそれは本人の自己責任の範囲のことなんですよ。