メンツ維持のためのコストに押しつぶされる日本企業
織田 聡氏
運営者 もっと肩の力を抜いて、完璧な仕事にしなくても80%できればいいじゃないかという気がします。
織田 いまの会社に移ってから、ホントにそれを感じます。ローンチ・アンド・ラーンという言葉があるんですよ。
コンサルティング会社はある意味で完璧主義者の集まりだったんです。なんせ相手が常務会とか経営会議ですから、どこかに穴が開いているとフィーがとれないと考えてしまいますので。そこを一生懸命と詰めますよね。ある意味で、シンクタンクの方がそのへんは余裕を持った仕事をしていました。
運営者 ビジネスの収益というのは、20%の顧客から80%の収益を得ているわけであって。
織田 銀行業の収益構造を分析してみると全くそのとおりですね。
運営者 だったらそこでキチキチに10円まで詰めて、そろばんを合わせなくてもいいわけですよ。ロスはロスとして織り込んでおけば。
織田 ところが、顧客別の収益管理している会社というのは意外と少ないんです。
運営者 例えばCITIBANKが自前の支店網を整備拡大する代わりに、都市銀行のATMに利用手数料を払っても、他行のATMを使わせてもらったほうが安いじゃないか」というソロバンを弾くことができるのは、顧客別の収益を計算しているからですよ。メンツなんかは必要ないんです。そのほうが顧客の利便性が確保できて、ロイヤリティーが高まるわけですから。これをやらないほうがバカだと僕は思いますけどね。
織田 日本の大企業は、一種、「エンパイア」なんですね。社員は、エンパイアビルダー。そのエンパイアは他の要素によって成り立っているかというと、メンツなんです。
運営者 メンツが叩き壊されてしまうと、エンパイアは崩壊してしまうんでしょうね。
それで、いつも思うのは、エンパイアは完璧性を求めているので、仕事の8割方が簡単にできるとして、残りの20%を詰めることにコストをかけるところで、それが無駄なコストになって負けてしまうのではないでしょうか。それが即ちエンパイア維持のためのコストだと思うんです。そのコストが大きくなると全体効率が落ちて、エンパイアはもっと合理的でまともなビジネスに負けてしまうのではないでしょうか。
織田 エンパイアにはエンペラーという国民統合の象徴が必要ですが、会社にはその必要がありません。なぜか。リーダーシップはしょっちゅう交換されていくものだからです。クリードはあったほうがいいでしょうけど。国体というのは必要ではないんです。
運営者 ジョンソン&ジョンソンのようなクリードは、あった方がいいですね。あれは素晴らしい。
なるほど、アメリカには大統領という、最近ではちょっと頼りない国父がいます。それは国家は生活を営む場であるから、そこにはそういった象徴が必要なんでしょうね。ビジネスの場に信条としてあるのが、社会・市場との繋がりを前提とした資本効率であり、生産効率だと思うんです。
織田 で、エンパイア維持に必要なことは、集合体としてのエンパイアの「メンツの維持」なんです。