ブライドを捨てよ、ミッションに参加しよう
織田 聡氏
運営者 エンパイアのディグニティは、ブランドに結晶化されているのかな。社員個々人のメンツはそこには関係ないほうがいいような気がするんですが。
織田 すごく重層的な構造になっていると思います。会社としてのブランドは確かに社員統合のための象徴だと思います。では自社のブランド価値をみんながきちんと認識しているかというとほとんど認識はしていない。
運営者 日産なんかそうでしたよね。
織田 で、社員がそのブランド価値のもとに馳せ参じて、「とりあえず個々人のメンツは二の次のことだ」と思えるかどうかが問題なんです。特に軍隊的なエンパイアでは、個々人のメンツをすごく大切にしてしまうのですが。
運営者 「大日本帝国軍人として……」というブランドの権威を笠に着たプライドの高い言い方をしますからね。「生きて虜囚の辱めを受けず」とか。「お前、自分のメンツよりも作戦完遂を重視しろよ」と、僕なんかは思いますが。
織田 そういう組織は、エンパイアというよりもむしろコミュニティ=生活共同体と考えたほうが辻褄が合うかもしれません。生活共同体というのは、単に経済的に生存を保証するだけではなくて、メンツやプライドも保証するための機関でもあるのでしょう。それが日本企業にも並行移動されているわけです。
運動会の川柳で、「抜くなその子は課長の子」というのがあるくらいですから(笑)。
運営者 ちょっと理解に苦しむものがありますよね。そんなことでは、エンパイアは普通のビジネス組織に効率の面で勝てないと思います。
織田 エンパイアでも、上昇期のエンパイアで他の国をどんどん征服している時のエンパイアは効率性に問題はないと思うんですよね。だけど領土が固まってしまうと硬直性がどんどん出てきてしまう。
運営者 なぜ拡大期のエンパイアが強いのかというと、明らかに効率性において他国を圧倒するスキームを既につくり上げており、それをもって競争を仕掛けているからだと思います。他国が相対的に弱いから勝てるわけ。ローマのファランクス(重装歩兵)と会戦して勝てる軍事単位は、長い間なかったわけですから。
織田 それは技術進歩があまりにも緩慢であったから。
運営者 そしてローマはさらに、他の国の技術進歩のスピードよりも早く自分たちの戦術や武装を進化させていきましたから。あくまで相対的なものなんです。そしてそれは今行われている競争でも全く同じことだと思うんです。
では逆に考えてみますと、エンパイアでなければ日本企業は生産効率を保つことができないのか。
織田 そんなことはないでしょう。明確なビジョンをもとに、そのビジョンに共鳴する人間を外部から雇い入れて働いてもらい、企業のビジョンや目標から個人の目的が外れたら辞めていただくという出入り自由の形にすれば。いくらでも新しい人材を採ることが出来ると思います。
運営者 でもね、ほとんどの企業組織というのは、ビジョンからスタートするわけではないと思うんです。財やサービスの供給が最初にあるのでは。
織田 「ミッションをつくる」というのは非常に難しいんですよ。過去の企業のケースを見てみると、やはりミッションは後からついてきていますね。