P/Lに厚化粧する経営者は尊敬の対象にならない
織田 聡氏
織田 特に大企業の場合は、収益というのはあまり重要ではないのかもしれませんね。「そこそこの利益さえ出していればいい」という目標なのかもしれない。そもそも経常利益で企業の成績を比較することは僕はナンセンスだと思います。なぜかというと、日本の大企業経営者は税金をコストとして認識していないからです。ほんとうは税引き後利益のほうが重要なはずです。
運営者 その間に特別損益というのが入ってくるじゃないですか。そこがバッファーになっているわけですが。
織田 資産売却益ですね。でも経常利益に含まれているものの中でも、特別損益にあたるものがいっぱいあるんです。例えば有価証券売却益というのは、長期保有で持っていたものがいつの間にか短期に変わっていたりします。その売買益というのは経常利益の中に入ってきてしまうんです。
運営者 クロス取引をするとそういうふうになっちゃうわけですね。
織田 そういうことです。あれはひどいですよね。日本の大手企業は、それを繰り返してきました。「これ違うんじゃないの、短期売買の儲けではないのになぜ経常利益になるんだろう」と思っていましたよ。長期保有していたものでも、直前になって売買を繰り返して短期保有売却益にすると、経常利益に入れることができるわけです。経常利益によって経営者の評価をすることが、僕は日本の企業経営を大きくゆがめていると思います。経常利益至上主義だとと、法人所得ランキングで「どれだけ税金を納めたか」ということが経営者の勲章になってしまいますよね。でもあれは、結局国に吸い取られているわけですから。
運営者 それをやっていない西武鉄道グループなんていうのもありますけどね。
織田 あるいは三菱商事とか。商事は外国税額控除で、日本であまり利益を出していません。
やはり税引き後利益こそが株主に還元される元手になるわけですから、こちらの方が重要だと思いますよ。税引き後利益をどんどん増して株主資本も大きくしていき、配当に充てるのががいい会社だと思うんです。
でもそういう観点で経営している会社はあまりないでしょう。僕は税金を納める額が少ない方がよいと言っているわけではありません。税金を納めた後に手元に残る利益がどれだけ多いかが問題なわけです。それが株主にとっての価値になるわけですから。企業に対するお金の出し手は最終的には株主しかないわけであって、その株主の利益を徹底する方向に行くんでしょうね。EVAのような仕組みは方向としてはすごくいいことだと思いますよ。まったく日本の経営者は損益計算書を厚化粧してごまかしてきましたからね。
運営者 そのかわり、今や「社長だ!」と言ったって誰も尊敬してくれないもん。
織田 マツダの最後の日本人社長が外国人記者に聞かれたらしいんです。「ストックオプションもないのに、何がモチベーションで社長をやっているのですか?」。そうすると彼は「ハイヤーが使えるからだ」と答えたというんですよね。それがエグゼクティブの発言かと思いますよ。部長クラスの発言でしょう。
運営者 それが貧富の格差のない社会で、多くの人々の利益を預かる経営者の発言だとすると困ったもんですよね。