人間、追いつめられれば必ずプロに脱皮できる
小峰 尚
運営者 「企業再建? そんな奴いない!」と思っちゃうような注文が来たらどうします、捜すんですか。どうやったら捜せるんだろう。
小峰 それはやっぱり、どんな小さなことでも成功したことのある人に頼みます。……成功体験がある人とない人だとやっぱり違うでしょう。それから修羅場をくぐった人。そういう人を見つけて、「もう一回挑戦してみませんか」と話を持っていくわけです。
運営者 そうか。考えてみれば僕のところにもいっぱいいろんな話がきたけれども、それって「やってみませんか」っていうことなんですよね。つまり、「職をやってみないか」じゃないんだけど、その仕事をやってみて、それでプロとしてちゃんとその結果を出してみないかということなんですよ。だから殆んど同じことなんですよ。オファーがあって、それを受けるかどうかなんです。
フリーの立場に立ってみれば。だから職が来るのも、あるいは仕事が来るのも殆んど変わらないんですよね、意識的には。逆に僕は、職の方が面倒くさいと思っているわけであって、だけど来る仕事に対しては「プロとして、全部完璧にみなさん満足されるようにやってみますよ」ということなんですよ。でも本来は会社に勤めていたとしても、仕事の中でやらなきゃいけないということっていうのは、それなんだと思うんですよね。
結局そうなんじゃないかな、そういうプロ意識ですかね。僕はすごくみんなの仕事の意識に興味があるんですけど、小峰さんのお話を伺っていると、こういうところに来る人ですらなんかあまりパッとしないのかなって思うと、本当に驚いちゃうんですけどね。ちょっと僕は奇形的にすぎるのかな。
小峰 人材っているようでいていないけど、早く気づいて学習すればなんとかなるはずなんです。だからおそらく50歳で勉強を始めても遅くないってことだと思いますね。
運営者 50歳でも変われます?
小峰 変われる。人間は「窮鼠猫を噛む」じゃないけども、追いつめられると人が変わって、今までやれないと思っていたことに挑戦するようになるんです。
そういう例がやっぱりありますよ。去年の夏に、某名門百貨店の退職金割増制度に手を挙げちゃって、半年どこかのCFOっていうんで売り込んでいたけど、結局彼はポータルサイトのベンチャーのCFOに就任しましたと。
「インターネットなんて何か怪しげな、そんなビジネスなんか嫌だね」なんて言っていた人が、もう背に腹はかえられず思い切って飛び込んで、そこで、「いや、わかんなくていい、あなたは帳簿付けが出来ればいいんだ」と。まあ他に職がなかったから飛び込んで行ったという部分も、勿論あるんだろうけど。
運営者 CFOと帳簿扱うのと、ずいぶん違うんですけど(笑)。
小峰 だからやっぱり、人間、変われば変わるんだなと思って。それはだから五十何歳の人でも。およそ場違いですよ。社員なんかみんな茶髪で髪の毛束ねているようなところに、そういう五十何歳の几帳面そうなおやじが一人。馴染めそうにない人でもやっぱり背に腹はかえられなくて。そうなった時は人は強いのかも知れない。だから40でないと駄目だとか、50でないと駄目だとか……。
運営者 20代でないと駄目っていうことはないと。
それから、「大企業が人材を囲い込みすぎ」なのは、やはり事実でしょうか? この狭い市場だから、だいたいアウトスタンディングな人はもうみんなわかっていて、争奪戦になりますよね。
小峰 大企業が取り込んでいるというか、大企業にいい人材が集中してるって思われる理由は、外資系の企業ってみんな中小企業が多いでしょう。まあ外資でも大企業は別よ、デカイところは。でもだいたい、自動車だったら輸入車の会社へ行った人たちというのは、みんな「飛び出なきゃよかったな」って後悔してる人が多いんですよ。
運営者 へえ、輸入車。
小峰 会社を辞めて行ってみると、「やっぱりあまりいい人材はいないかった。まだ大企業にいた時の方が楽だったなあ」と思っているわけです。大企業だと、管理職にはやはりかなりの権限がありますからね。そういう仕事になれていた人が、結局はみんな自分で仕事をさせられちゃう。自分でコピーとらなきゃいけないとか。そういうのを見聞きすると、要するに大企業にいい人材が集まっていると。仕事が出来る人っていうのは、大企業に偏在しているんですよ。ちょっと出て行った人間がそういうことをこぼすと、益々みんな大企業から出ようとしなくなる。「やっぱり、多少嫌な上司だけども、何年かすれば異動するだろう」と。
でも、小さい会社へ行ったら異動がないから、自分が嫌だったら出ていくしかないわけです。そういうメカニズムってあるじゃないですか。だから結果的に人材は大企業に囲い込まれることになっちゃってるんですね。でも、だいぶロイヤリティーというのも、なかなかなくなってきてますから。
運営者 ある閾値を超えれば、どっとと雪崩を打って人材流出が始まるはずですよ。大企業にいるメリットが減り、新興企業に移る報酬が良くなれば、みんなの考え方が変わる。そうなるまでに、そう時間はかからないと思いますね。
(この項終わり)