「税収」を巡る国際公会計基準審議会の議論
桜内 そうです。だから、「税収」を企業会計と同じように考えて、単純に「収益」と置き換えたのではダメなんです。
企業会計には、「収益費用対応の原則」というのがあって、何かお金を払うのであれば、それで収入が入ってくるという仕組みになっていて、収益と費用を損益計算書で対応させていくら利益が出たかを見るようになっています。
だけど国の場合には、公務員の人件費はどんどん出てきますし、生活保護費もどんどん出ていきますが、そうした施策によって何をしようとしているのかと言うと、それは「公益の促進」なんですよ。
運営者 その通りですね。
桜内 マスグレイブが言った財政の三機能「資源配分機能、所得再分配機能、景気調整機能」がありますよね。
これ、資源配分として道路を作ったとします。便益が上がりましたと何時から言えるかというと、翌期以降じゃないですか。その年は、まだ道路建設中なわけですから。
所得再分配としての生活保護については、なぜ生活保護を行なっているかというと、社会全体の厚生が高まると考えられるからですよ。財政政策の中で社会保障や福祉を行う理由は、それをやったほうが社会全体の公益、厚生が高まるからなんです。それ、いつからですかね?
運営者 先の話ですねえ。
アルノ河の夕暮れ桜内 3つ目の景気調整ですが、景気が悪ければ国のお金を出して、その分、その期の国の資本勘定が減ることになります。景気が回復したら増税してお金を貯めておきましょうということです。これも社会全体の公益、厚生のためにやっていることです。
なぜこんな話をしてるかというと、今国際公会計基準が、IFAC(国際会計士連盟)に設置されているIPSASB(The International Public Sector Accounting Standards Board)=国際公会計基準審議会というところで議論されているんです。
運営者 昨年、会議に行かれたそうですね。
桜内 ええ、その時に「税収」の扱いが問題になったんです。僕は昔から「税収は収益ではない」と言い続けているのですが、これに対して彼らがいきなり出してきて驚かされた考え方があるんです。
「繰延税金資産」ってあるじゃないですか。あれみたいに、繰延インフローに該当する税収と、普通の税収に該当する税収の2種類があると言い出したんです。その上で、繰延インフローに該当する税収は出資と同様、資本直入とし、他方、普通の税収については企業会計の売り上げと同じく収益とするというのです。
運営者 なんですかね?
桜内 さきほど申し上げた企業の損益計算書における、「収益費用対応の原則」がありますよね。ところが国の歳出と税収は、「この歳出を行ったからこの歳入が上がる」というふうに結びついているわけではありません。対応関係はないんです。
だけど彼らが何を考えたかというと、歳入と歳出のタイミングなんです。今年税収があったのであれば「収益」にしましょう。期ズレが生じた場合は、「繰延インフロー」にしましょうと言うんですよ。