情報発信者の専門性が揺らいでいる
三神 もうひとつ、この分野を調べざるを得なくなったのは、「メディアの専門性とは何なのか」には二つの意味があると思うからなんですね。
ひとつめは、ご指摘の取材の対象分野に対する必要十分な専門知識。こちらは個人の努力の問題です。
ふたつめは、「公共に情報発信をすることを専業にしている者」としての専門性です。実は、私自身の脆弱さや不勉強を抜きにしても、ここが洗練され体系化されたものになっていない。
こんな風に言うのは、
「この案件はジャーナリストと名乗る者が受けていい性質のものなのか?」
という判断に、一貫した論拠でクリアに答えが出せないケースにたくさん直面しているからなんです。
組織の中で、執筆や企画など、特定の役割に集中できる方々と違って、個人で開業していると多種多様な依頼があるので、ケースごとの判断が必要なんですが、この困難さが増していまして。でも当たる先がない。
業界内の人にいろいろ相談したんですが答えが見つからなくて、事例を調べざるを得なくなりました。雑誌、書籍、テレビ、新聞、ラジオ、それに海外のメディアとも少しだけお付き合いがあるんですが、所属や国ごとに考え方や回答がばらばらなんです。
さらに混乱してきたのは、プロのメディアからの依頼が、取材はしたものの「どういうポイントでこの情報を見たらいいのか教えてほしい」であるとか、「取材すべき先を教えてほしい」といった、本来なら情報の作り手の責任になる視点や切り口の部分や企画、最終段階の見せ方の相談に及んできたことです。そして拍車をかけたのが、伝統的なマスメディア以外の新興勢力が増えてきたことでしょうか。
運営者 ええ、メディアへの新規参入者がかなり増えてきたのは事実だと思いますね。特に出版やウェブサイトは参入障壁が低いですから。だからレベルはひどいもんですよ。具体例はこのあと話すとして、それがどう「情報信頼性評価」に繋がるんですか?
三神 始めは、各国のマスメディアの倫理規定を調べていました。『世界のメディア・アカウンタビリティ制度』(明石書店)の著者のクロード・ジャン・ベルトラン氏がやっておられるIPCのウェブ を参照したり、先進国で公共放送があるというと英国と日本くらいですから、その点を重視しましてBBCのエディトリアル・ガイドライン を参照したりしました。
でも、判断したいのはもう少し細かい業務のワークフロー単位であったり、ここで取り扱われている新聞やテレビとは違うパッケージ単位での情報発信であったり、旧来とは違うメディアが増えてきている中ではカバーできないものが出てきたんですね。
こうなると、情報発信者全般のレベルから、受けていいもの、いけないもの、フィーを請求すべきもの、してはならないものといった、責任範囲を明確にするための考え方を調べておかないと、危ないぞと。
情報を受信するとき、加工するとき、発信するとき、発信媒体を選ぶとき、すべての段階で判断の根拠になる、体系化されたロジックのようなものが必要になってきました。
言ってみれば言論を売る仕事を名乗っているわけですから、信頼性を担保するレベルを一定水準以上にしておかなければ、自分の職業が職業として成り立たなくなってしまうのではないかと。