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メディアの「情報信頼性評価基準」を考える

三神万里子 氏

アナウンサーがCMに出るのはおかしい



三神 BBCのエディトリアル・ガイドラインが、娯楽コンテンツに出る人と、報道・情報系の番組に出る人は分けなければならないとするのは、こうした言論や情報発信に携わる人々のお金の流れと言論の独立性を厳密に捉えて、情報の信頼性を担保する考え方ですね。

運営者 それは出演者側の権利を制限することになりますから、かなり厳しい基準ですよ。まあ公共放送だからなぁ。

三神 これは見る人に誤認を与えないため、視聴者を守るためにという基本的なレベルの倫理概念を厳格にしている、と見たほうがいいと個人的には思います。その番組が人々の意思決定リスクを減らすことを目的としたニュースなのか、感情への刺激を目的とした娯楽なのか。
 でも今の日本ではニュース風バラエティーもありますし、バラエティー風ニュースもありますよね。娯楽における手法がニュース・情報コンテンツに入り込んでいるし逆にニュース・情報コンテンツのスタイルを娯楽が演出に使っている。
 最近ではテレビCMでも、レポーターによる報道や客観インタビューに見える演出をする例が頻繁に見られますし、電車の中吊り広告では客観記事の見出しが並んでいる横に、そっくりなレイアウトデザイン、活字で、記事の見出しのように見せた広告が印刷されているものがよくあります。

運営者 広告会社が先導する形で、雑誌が自分たちのブランドの信用を切り売りしてるんですよ。特に女性誌はそういうのは抵抗ないですからね。そもそも女性誌は企画の時点でブランドメーカーとタイアップしてるし。

運営者 ゴールデンタイムの娯楽番組でも、演出なのか事実なのかは明示する必要があると思います。この辺、いまの民放の番組はかなり引っかかりますよね。
 それからはっきり言うと報道ステーションやニュース23はニュース風バラエティーですよ。むしろ今では、朝昼やっているワイドショーの方がまともになっています。昔は報道と社会情報局の間にはファイアーウォールがあったのですが、90年代の半ば以降に各局でそれが取れて、お互い情報素材を融通し合うようになったんですよ。その結果として、「ワイドショー政治」と言われながらも小泉首相が誕生し、改革の後押しになった。田中真紀子や鈴木宗男がワイドショーの主役になりました。それまでワイドショーは事件と芸能人しか追いかけていなかったことを考えればかなりの進歩です。ところが報道番組の方はどんどん崩れていった。報道の方がワイドショーのレベルに近づいちゃったんです。
 さっきも言ったけど、キャスターコメントをとってみても、事実を客観的に評価するというよりは視聴者の感情に訴えかけるということをやっていて、コメンテーターに限りなく近いですからね。なんと06年4月から、NHKの9時のニュースまでこれに追随したのは驚きの一言です。

三神 日本の視聴者が情緒的なものを好む、という風潮はあると思います。

運営者 あと、鳥越俊太郎は損害保険協会のコマーシャルに出ていたのですが、これはかなり凄いことですよ。あれを見てほんとに驚きましたね。彼はつい最近、薩摩焼酎の雑誌広告にも出ていた。蟹瀬誠一は07年秋に、NECの携帯電話の広告に出ていた。それから外資系生命保険会社のコマーシャルに民放のアナウンサーが出ていたなんてのもありえないことです。気象予報士も、これに準じる存在でしょう。「出演するだけで数千万ももらえるというのはなにかおかしい」という意識が働かないとおかしい。コマーシャルに出る報道人は、報道全体の信頼を切り売りする裏切り者です。

三神 広告記事や広報誌で、その企業の経営者との対談にアナウンサーやジャーナリスト職が出るのも、こうした職業倫理上は抵触すると考えます。プロフェッションの職務範囲を定義し直さなければすべてが娯楽コンテンツと変わらなくなっていくでしょうし、メディアのCredentialって何なんですか、という先にお話した疑問をさらにつきつけられる恐れがある。

運営者 アナウンサーが政府公報に出ているのはいかにもマズイですよね。お前は権力を監視する側だろう。こびへつらってどーすると。

三神 それからキャリアを途中で変える場合、ニュース・情報と広告の間を行ったりきたりするのは癒着防止上、避けなければならないでしょうね。

運営者 戻れないです。雑誌の世界では、一度広告部に行ったら編集畑には戻って来れないという不文律があったんです。新聞もそうだと思いますが。一流といわれるメディアにはそれがあったんですが、今かなりその辺がいい加減になってきていますね。



インタビュー後半は後日掲載予定です。乞うご期待!

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