中国の食事の席に取り箸がない理由
エコノミスト
田代秀敏氏
田代 そう。だから中国では、友達になるというのはそのくらい重たいことなんです。
友達になった中国人はこちらの無理をきいてくれます。しかし、むこうもこちらに無理をいってきます。どこまで無理をきいてやり、きいてくれるか。それが友情の尺度なんです。
だから、中国で会食は、お互いの人物を測りあう重要な場面であって、神経を使って、へとへとになります。
運営者 そうすると、日本人がそれを意識せずに中国人と会食するのはまずいですね。
田代 大変に軽蔑されます。
運営者 なるほど。
田代 テーブル・マナーも大切です。中国のテーブル・マナーでは、取り箸というのはないんです。自分の直箸で、相手が食べる分を取ってあげるんです。
運営者 あっ、さっき田代さんが私の分を取ってくれたのはそれですね。
田代 お互いがそうするわけです。
これは、ある意味では毒殺防止法でもあります。最初から取り分けてあったら、自分の皿に盛ってある料理にだけ毒が入っている可能性がありますからね。
運営者 日本の酒席のマナーでお流れ頂戴やら返杯やらをするのも、同じ理由です。
田代 ところが中国では、お酒は上から下に注ぐものなんです。上の立場のものが、下の立場の者にお酌します。
だから中国の宴会に行くと、そこにいる共産党の一番偉い人が、テーブルの間を走り回って、お酌しています。
運営者 日本人はそれを見て感動するかもしれないけれど、実は中国ではそれは普通なんですね。
田代 そうです。お互いがお酌をするということは、対等な立場であるということを表すわけですから。
運営者 日本ではお酌をしてもらうのは目上のように思いますが、中国ではそうではないわけですね。
田代 そうです。対等な関係にはなかなか持ち込めないです。