「今日も中国共産党はおおいに権威を高めました」
エコノミスト
田代秀敏氏
田代 だって家に帰ったら、妻に媚びまくっているわけでしょう。
中国の朝は、夫が朝ご飯を作ってから妻を起こすんですよ。中国の会社は午後5時になったら男は誰もいません。だって4時45分になったらみんながスタンバイして、5時の終業のサイレンが鳴った時点で会社や工場を出てスーパーに走っています。そして食材を買って6時までに家に帰り、夕飯を作っていると妻が帰ってきます。帰ってきた妻は、「ご飯、何時?」と聞きます。
みんな、そうやって暮らしているわけですから、いくら書記が威張って演説していても、4時半になったら「あのう、そろそろ書記も夕食の準備をしなくて大丈夫ですか」と、みんなが心配しはじめる・・・。
運営者 マンガじゃないんですから(笑)。
田代 そういうことがあるので、権力と権威がくっつかないんです。そこで中国では、権力が権威を保つために、派手なパフォーマンスが必要なんです。オリンピックとか、宇宙開発とか。
運営者 ホントなんですか、それ?
田代 中国のニュースでは、胡錦涛総書記や温家宝首相が、炭鉱の落盤現場や洪水の現場に行って、総書記や総理が自ら救助活動の陣頭指揮をとる光景が、せっせと報じられます。
アナウンサーは、総書記や総理が「こういう事故は二度とあってはならない」という指示を全国に伝えたと述べ、最後に厳かに、「今日も中国共産党はおおいに権威を高めました」と述べてニュースを終えます。そういうふうにして、中国では毎日「水戸黄門」をやってるんです。
だから、みんな日本の政治家と違って、中国の書記は本当に忙しい。
運営者 温家宝も地震の時には現地に行ってうろうろしてましたからね。
田代 前総理の朱鎔基はもっと派手でしたよ。堤防が決壊し洪水が起きている現地に飛んで、視察するわけです。そうすると堤防が手抜き工事で鉄筋が入っていないということがわかります。そうするとドシャブリの雨の中で、朱鎔基総理が、「こんなオカラのような堤防を作ったやつを俺は許さない」と怒りをぶちまけ、兵隊に棺桶をもってこさせます。そして、現場の責任者に対して、「こんないい加減な堤防を作ったやつをしょっ引いて、この棺桶に入れろ。できないなら、お前が棺桶に入れ。それも嫌だったら、おれを殺して棺桶に入れろ。さあどれを選ぶ」と言います。
現場の責任者が「命がけで党と人民のために働きます」と言うと、朱鎔基は「好」(ハオ、「よし」)と言い、自らバケツを握りしめ、逆巻く濁流の中に入っていこうとするんです。そうすると、閣僚や兵士たちが「私たちがやります」と言って、朱鎔基を押しとどめ、解放軍兵士による壮大なバケツ・リレーが始まるわけです。
こうした光景を含むニュースを全国放送するわけですが、その最後にくるアナウンスは、「今日も中国共産党はおおいに権威を高めました」なのです。
運営者 そういうの、大慶の油田の記録映画で見た事ありますね。
しかしまったく不思議なのは、人類で最も現実主義的な中国の皆さんが、そのニュースを見ていたとして、本当に「党の権威が高まったな」と感じるとは思えないのですが。
田代 それくらいで党の権威は上がらないですよ。だから宇宙ロケットを打ち上げなければならないんです。