金融危機で、世界は中国にとって都合よく一変する
エコノミスト
田代秀敏氏
田代 アメリカは今や、金融機関を事実上どんどん国有化してるじゃないですか。
運営者 ええ。
田代 あれをやっていたら、中国のアドバンテージはどんどん上がりますよ。
だって、何もかも国家がマネージするということであれば、中国は「それは中国に任せてください。中国は何百年もそうやってきましたから」ということですからね。アメリカはおそるおそるやってるわけですから、中国にしてみれば赤子の手をひねるようなものですよ。
運営者 アメリカがケインズ政策を手放してからずいぶん経ちますからね。
田代 ところが、アメリカ政府がAIGの株式を80%持つんですから、中国工商銀行と一緒じゃないですか。株式会社になった国有企業の運営方法は、中国が一番よく知ってるわけですよ。だから、「今までアメリカは、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスが金融業を牛耳ってきた。でもこれからは中国共産党が指導してあげましょう」と思っているわけです。冗談でも不遜でもなく、本当にそう思ってます。
運営者 それをまともに受け容れるアメリカ当局の人間は誰もいないと思いますけれど。
田代 でも、パフォーマンスの点でアメリカは負けているんです。その事実を日本人は見るべきだと思いますね。
EUは、「中国と産油国にはIMFに追加出資しなさい」と言ってるんだけど、日本には言って来ていません。「日本は金は持っているけれど、何もできない」と見限られているんですよ。
何をやろうとしても、野党がうるさくて何もできないということが分かっているし、08年10月8日のアメリカとEUの協調利上げに日銀はまったく参加しようとしませんでしたから。その時は「日本は利下げの余地はありません」と言ったのに、10月末になって金利を0.2%下げても、世界の誰も相手にしてくれません。
10月8日に利下げしておけば、「やはり日本はアメリカのベストフレンドだ」と称賛されていたんですけどね。
運営者 でもね、日銀はできなかったでしょうね。0.5%まで公定歩合を上げるだけでも必死だったんですから。「それをまたなんで利下げしなければならないんだ」と思っていたでしょう。結局08年末までに0.1%までじりじり下げたんですから、かなり見苦しいですよ。
田代 でも、いまアメリカは国家存亡の時ですからね。金策のためにカバンを持って走り回ってる中小企業の社長みたいな状態なんですから。
運営者 「銀行が閉まるまでに金が欲しいんだ」ということですから。
田代 今のアメリカは「同情するなら金をくれ」なんです。
運営者 田代さんの中国人に関するお話は、私にとって驚くべきものでした。距離的にも近いし、文化的にも大きな影響を受けている国なので、だいたい同じような人間なんだろうとか、黙っていても理解し合えるだろうと思っていたのですが、どうやらまったく違う人々のようなので、理解し合うまでにはかなりの時間がかかりそうな気がしますね。
それで、中国人や中国という国がどういうものかということは、なんとなくおぼろげながらわかりました。その中国がいまや、経済的にも世界に進出してきたわけですが、それが日本にとってどのような影響を与えるのか、世界にとってどうなのかというお話に踏み込んで伺いたいと思います。
田代 いまの金融危機の結果、世界は一変すると思いますよ。それも、かなり中国にとって都合よく一変するでしょう。
運営者 自由主義経済諸国がボーッとしていたら、そういうことになるでしょうな。
田代 中国人は決定的な自信を持っています。中国人にとって、すべての民族は少数民族なんです。
運営者 その認識は、別にまちがってはいないでしょうね。
田代 物理的に正しいですからね。