中国にとっての北京オリンピックの意味
エコノミスト
田代秀敏氏
田代 だからふつうの国なら、口で言うだけのことを、本当に実行してしまうんです。
たとえば今までのオリンピックで、外国での聖火リレーに自分の国から護衛隊を送った国があったでしょうか?
運営者 なかったと思いますよ。聖火防衛隊には驚かされました。
田代 しかもその国にいる中国人を大量動員して、自国の国旗だけを持たせて組織的な応援をさせた国があったでしょうか。
運営者 なかったと思いますよ。しかもそれをやって恬として恥じない。中国はそういう国なんだということが、あれで世界中に認識されました。
田代 かといって、どの国も北京オリンピックをボイコットしませんでした。中国から得られる膨大な利益を手放したくないからですよ。
運営者 それは一つの解釈であって、違う角度から見れば各国が自由貿易の価値を認めているからボイコットしないんだという言い方もできると思いますよ。
田代 自由貿易であれば、政治的な思惑は必要ないわけです。
運営者 オリンピックに対して、普通の国は政治的な思惑は持たないわけですが、中国はそうではなかったというだけです。中国にとっては北京オリンピックは完全に政治的な祭典であったわけですね。
田代 そうです。日本人が完全に思い違いをしているのは、中国には、北京オリンピックを経済発展のジャンピング・ボードにしようという発想は全くないんです。あれは100%、共産党の権威を高めるための政治イベントです。
開会式での子供の歌の口パクや、少数民族の衣装を着て出てきた子供全員が漢民族の子役俳優だったとか。あれは、中国で開かれる国慶節などの重要イベントでは、いつもやってることなんです。子役として普段使っている子供たちだから、ああいう大イベントでもあがらずに務められるわけです。だから口パクや子役を使うのは当たり前でしょ、ということです。
「何を非難されているのかわからないけれど、そんなにみんなが気にするのであれば、ホスピタリティーとして今度から公にするのはやめましょう。徹底して秘密にしてあげます」くらいの感じです。
運営者 その言い分はよくわかりました。だけど西側諸国からすれば、やはりやらせとしか見えないです。そこには何か感覚のズレがありますね。
田代 そうですね。しかしそこに感覚のズレがあったとして、彼らは自分たちの方が姿勢を正そうとは考えません。
運営者 それはもちろん。だって西側だってそう考えているわけですから、お互いさまですよ。
田代 しかし中国側がどう考えているかというと、「中国は正しい、なぜならば世界の中心だから」と思ってるんです。