HOME > オペラ・クラシックコンサート便り > 新国立劇場公演《マクベス》(2004年5月13日) 野田秀樹オペラ初演出

印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |


ナビ1ナビ2ナビ3ナビ5
ナビ4ナビ6

新国立劇場公演《マクベス》(2004年5月13日)

武田雅人

 野田秀樹が初めてオペラを演出したことで話題となった《マクベス》公演の初日を観ました。結論から言うと、少し肩に力が入っている感じがするものの、なかなか面白い、楽しめる公演であったと思います。
 「少し肩に力がはいった」という印象は、初日で出演者の演技や歌唱が多少硬いということもあるのでしょうが、やはり野田演出、特にその独特な「魔女」の存在が目立ちすぎる、ということからも来ているのだと思います。今回の演出では、魔女たちは、黒いヴェールをかぶった頭のうえに髑髏を乗せ、腕の先にも骸骨の腕を露出させています。このため手足がひょろひょろと長い骸骨が浮遊しているように見えます。

 この魔女たちには、本来の女声歌手のひとびと以外に、役者やダンサーが扮するものも混じっており、魔女の歌唱シーンが無い場面にも、頻繁に登場して、主人公の運命の糸を操る存在であることを主張するのです。例えば、マクベスがダンカン王を殺害するために寝所に忍び込むときに骸骨たちが先導するように前を歩き、帰りには後から出てきますが、その白骨の手が赤く染まっています。また、バンクォー暗殺の場面では、息子のフリーアンスを取り囲んで刺客たちからかくまう動作をします。魔女の合唱のシーン以外は、登場人物たちには見えないというお約束の黒衣(くろご)のように振舞いますが、このオペラも原作の芝居もよく知らない観客の場合は、どの魔女が「見える存在」でどの魔女が「見えない」存在なのか、よくわからずにとまどったかもしれません。
 とにかく骸骨というのは死者か死神の象徴ですから、いわゆる「魔女」、すなわち予知能力を持つ化外のモノども、とは不気味さや怖さの性質が違うように感じます。また、中性化した骸骨では、オンナであることの底意地の悪さ、禍禍しさ、男の運命を翻弄するチカラというものが表現しきれない憾みがあります。しかしながら、プログラムを読むと野田秀樹の意図はまさに「魔女とは踏み荒らされた土地の下に棲む戦場の死者だ」という「死者」のイメージを強調することにあるのでした。
 「なぜ魔女は、マクベスの運命を予言できるのか。それは戦場の死者だからなのです。彼らだけが権力をめぐって血を流す者の運命を語る資格があるのです。」「装置としては、荒野に巨大な王冠か一個あり、その下に眠っている骸骨たちが、その王冠をめぐるお話を語っている、それが《マクベス》だという解釈です。」

 これだけユニークな解釈を持ち込み、メッセージとして発信することが、オペラの演出として適当であるかどうか、については賛否両論あるでしょう。カーテンコールで野田氏に対して「ブー」が出たこともやむを得ないかも知れません。しかし、時代設定や服装を極端に変えたりする「新演出」よりは、ずっと劇の本質を見据えた、わかりやすい演出であったと思います。
 また堀尾幸男の舞台美術は、骸骨たちが湧き出てくる(おそらくは古戦場の)野原を、黄色いバラが咲き乱れる美しい花畑にしてしまうなど、陰鬱なスコットランドの荒野とはおよそかけ離れた意表をつく装置で視覚的に楽しませてくれるものでした。そして「巨大な王冠」は、解説を読むまで王冠だとは気がつきませんでしたが、とにかくいくつかの階段がついた円筒形の足場が回り舞台の上に載っていて、それが回転したり開いたりすることによっておこなわれる場面転換はなかなか見事でした。
 特に、第4幕第1場の難民たちの合唱が、この回転する装置を登ったり降りたりしながら歩きつづける姿で歌われたのは、まさに流浪の民の視覚化といえ、実に効果的でした。

 とにかく、2001年の藤原オペラにおけるヘニング・ブロックハウスの演出とヨゼフ・スヴォボダの美術(オリジナルはローマ歌劇場のプロダクション)、2003年のスカラ来日公演のグレアム・ヴィック演出とマリア・ビヨルンソンの美術、そして今回の公演と、このところ日本で上演された《マクベス》はみなそれぞれに工夫を凝らしたプロダクションになっていて、とても楽しめました。やはり、シェークスピアの原作ということで、演出家は張り切るのでしょうか。残念だったのは、ローマとスカラのプロダクションは、それぞれマリア・マダウとロン・ハウエルという優れた振付師によるバレーも良かったのですが、今回はヴェルディのバレー音楽の中でも一番優れている1865年パリ版のバレーシーンがカットされていたことです。

 さて、肝心の音楽についての感想に移りましょう。まずは、このオペラのキーロールであるマクベス夫人を歌った、ハンガリー出身のソプラノ、ゲオルギーナ・ルカーチについて。重くて強い声を持ち、この役に必要な凄みと迫力は充分ありました。2001年の藤原オペラ、2003年のスカラ座来日公演の両方でこの役を歌ったパオレッタ・マッロークと比べると、アジリタの切れはいまひとつですが、声の重さと強さは上であると思います。現在のこの役を歌わせたらベストと思われるマリア・グレギーナに比べるとやはり「荒っぽさ」と「力み」が目立ってしまうところがありますが、スカラ座でグレギーナの裏を歌っていたシンシア・マクリスよりは上でしょう。
 野田秀樹の演出は、夫人の気の強さ、ヒステリックさを強調するものでしたが、うまくそうした性格を表現していたと思います。このルカーチのカーテンコールに「ブー」を浴びせる手合いがいましたが、これだけの声がなかなか得がたいものであることをわかっていない人であるように思います。どうも日本の会場では、天然記念物である「重い声」に対する感動と敬意の度合いが低いような気がしてなりません。特に、レディ・マクベスは美しく歌えばいいってものじゃないんだぜ、お兄さん。

 標題役は、ミュンヘンのベテラン・バリトン、ヴォルフガング・ブレンデル。最初は少し響きが安定せず「もう衰えたのかな」と思わせましたが、喉が暖まってくるとさすがで、野心家だが気が小さい恐妻家というイメージを好演、第4幕のアリアも柔らかいフレージングでしみじみと聴かせてくれました。
 バンクォーの妻屋秀和は、よく通る伸びのあるバスで、イタリア語の発音も明瞭、健闘していました。これなら外国人歌手を連れてくる必要は全く無いと言っていいでしょう。
 マクダフはミロスラフ・ドヴォルスキー。兄(?)のペテルよりも品のいい歌い方が好感を持てる強めのリリコ。しかし、このあたりのクラスなら、たとえば市原多朗をはじめとして日本人で十分遜色のないテノールがいるはず。シングルキャストにして、わざわざ外タレを呼んで来るノヴォラツキー芸術監督のやり方には、やはり疑問を覚えます。彼の就任にあったってのゴタゴタがあらためて思いだされます。

 さらに疑問をおぼえる起用が、指揮者のミゲル・ゴメス=マルティネスです。手堅い指揮ぶりではあるものの、日本人指揮者を差し置いてわざわざ招聘するほどの腕前も将来性も感じられません。ムーティと比べるのは酷であるとしても、藤原オペラで指揮をしたレナート・パルンボの方が、この曲の聴かせどころである第1幕や第2幕のフィナーレのコンチェルタートでは、ずっと泣かせてくれました。合唱の声がよく出ていただけに残念です。また、マクベスと夫人の2重唱の後半がやたらと速くなるテンポの設定にも疑問があります。あまり声に敏捷性があるとはいえないふたりのソリストが、とても歌いにくそうでした。






愛媛4区 桜内ふみき 公認会計士サイト運営者は桜内ふみき氏をサポートしています



人間力★ラボ



「人間力」エピソード





ナビ1
ナビ2
ナビ3
ナビ4
ナビ5
ナビ6


芦川淳氏   自衛隊vs.人民解放軍 我らもし闘わば
芦川淳氏   原子力空母ジョージ・ワシントンに乗ってきた!
芦川淳氏  沖縄の基地問題など、国防を考える3
田代秀敏氏 「混沌の大国」中国と中国人を知る

神保哲生氏  今更なんですが、「ジャーナリズムとは一体何なのか」
三神万里子氏 メディアの「情報信頼性評価基準」を考える

山田恭路氏 自然派ワインに首ったけ
川村武彦氏+山田恭路氏 「天才の国」イタリア自然派ワインの真実


野中郁次郎氏 ナレッジ・ワーカー育成講座
本間正人氏  コーチングは日本の「やる気」を呼び起こすか
三ツ谷 誠氏  市場、個人およびカイシャの一般法則
織田聡 氏   カイシャ文化の現在を問う

「国ナビ」で作った予算対案を衆院本会議に提出/桜内文城 氏
竹中平蔵氏  なぜいつまでたっても「改革」できないのか
中林美恵子氏 アメリカ議会に見る「機能する立法府」のあり方
瀬口清之氏  パブリックマインドとは何か

小西達也氏 「チャプレン」という仕事 ヴェルディ&ワーグナー生誕200年 記念座談会
爆笑座談  オペラ愛好家とはいかなる人種か?
METを観たら、METを読もう!
2013年夏のヴェローナ音楽祭/武田雅人
2010年夏のヴェローナ音楽祭/武田雅人
2007年夏のヴェローナとマチェラータ音楽祭/武田雅人
偏愛的オペラ談義

ネット起業! あのバカにやらせてみよう
ベネチア貿易船復元計画
江戸城再建計画
『日本の借金』時計への勝手リンク
12-13イタリア旅行
11ヨーロッパ紀行
04ヨーロッパ紀行
02ヨーロッパ紀行
フィリピン有情
佃点描
ぼくはこんな記事をつくってきた
余は如何にして編集者となりし乎
雑誌づくり講座

4秒でわかる Pin Point ワールドカップ2014
4秒でわかる Pin Point ワールドカップ2010
日本のサービス、ここが間違ってる
爆笑! 四酔人サイト問答
女子大生版「日本のカイシャ、いかがなものか」 丸山真男と日本の外骨格
藤原正彦先生論文「国家の堕落」を読む
金融工学は製造物責任の夢を見るか?
酒飲みの「旅行話」
台灣好好 日本よりも日本らしく
さる名門女子大における恋愛論講義
人間力営業
「人間力」101本勝負メールマガジン
「人間力」とは、大人になることと見つけたり

最後に勝つのは「新日本人」だ
「新日本人/旧日本人」モデル
「新日本人」論 対話篇
「カイシャ主義」に挑戦! “オープンソース型ビジネスマン”の生きる道


誰が神を殺すのか
構造改革とは意識改革である
現代都鄙問答
一億総中流の倫理崩壊
完成! 「新日本人ルネサンス論」
日本人の田舎者意識の精神史的地位

鈴鹿市の見える歯科治療・歯科CT 仙川駅前の皮膚科・気管支ぜんそく 長引く咳  東京都 高輪矯正歯科・八重歯  税理士法人浅野会計 名古屋市の相続承継・会社設立 ひかり歯科 千葉のキッズ予防歯科 スタッフ 匝瑳市 デリバティブ 仕組債・仕組預金の商品分析に関する解説 他社株転換債 社員研修 マナー研修 身だしなみ愛西市近くの審美歯科

銀座の老視矯正 コンタクトレンズ制作眼科豊田市にある内科・点滴・相談漏斗胸・胸郭変成の外科治療専門サイト千葉市 心療内科・椿森・うつ医療ホームページ/クリニック/医院/診療所の集患増患コンサルなら

金沢区/内科 かぜ国立市/内科 糖尿病治療 中央線介護の管理者/アルバイト/パート|三重県鈴鹿市・安心シンプルな手術法、漏斗胸治療デザイナー求人戸塚クリニック 横浜市戸塚区 内科笹塚 メガネは眼科で相模原市南区の内科 動脈硬化

鶴見区/整形外科 リハビリ科浜松市/ALTA療法 痔の相談 薬物療法青森市役所横/横内耳鼻科医院開業セミナー
大阪市の肛門科専門医取得・静脈瘤治療・内視鏡検査アルタ療法講座 治療概念町田駅近くのたむら整体院サイト 顎痛松山の漏斗胸治療・救急科案内ル・サロン 柿本葛西駅/整体 頭蓋オステパシー 相談怪我やヤケドなら形成外科へ