ある筋のご尽力により、世間でも話題の標記公演プラチナチケットを入手、4月15日(日)の第一部公演に行ってまいりました。
リニューアルした歌舞伎座は、正面からの外観だけでなく、劇場内部も一見したところ、改築前とほとんど変わらない構造、内装ですが、今回は3階席からでも花道の七三(花道を出入りする役者がここで観得を切ったりする大事な場所)がちゃんと見えるという大きな改善点を実感することができました。
また、大きく変わったのは、劇場内部と外側の中間、いわゆるフォワイエの部分です。エレベータが設置されたほか、上手側、下手側の両側にエスカレーターができ、女性用トイレも拡張されるなど、観客の利便性はかなり高まっていると思います。
ただし、フォワイエの空間自体の広さは、旧館時代にあった下手側への張り出し部分がなくなったので、かなり狭くなった感じです。昔は下手側1階にあったみやげ物屋、2階にあった飲食スペースなどがなくなった分、地下2階にみやげ物屋、コーヒーハウス、コンビニ、前売り所などがある広いスペースができているのですが、そこは地下鉄駅とも直結するパブリックスペースであり、劇場内の観客が幕間にそこに行くためにはいったん一階の劇場正面出口から外に出なけれない、という変な構造です。
結局、劇場内で幕間に過ごす空間は大幅に減って狭苦しくなった感じは否めません。観劇の時間というのは幕間も含めてのものであることを理解していない設計上の大改悪だと思いました。
客席空間の三倍以上のフォアイエ空間を持つウィーン国立歌劇場は別格であるとしても、日本の伝統演劇の最高峰である歌舞伎座には、せめて東京文化会館や新旧国立劇場並みのフォアイエ空間は欲しいと思うのは、民間施設としては贅沢すぎるのでしょうか?
少なくとも、改築前の歌舞伎座には、味はともかくとして幕間に食事ができる場内が何か所もあり、ギフトショップの面積も広かったので、ゆったりと芝居見物する気分を盛り上げてくれる幕間スペースの多彩さという点では、なかなかの水準でした。改築によってそうした良い点を活かしつつさらに満足度の高い空間に生まれ変わることを期待していた観客としては全く期待外れの出来だと言わざるを得ません。こうした点を全く指摘せずに劇場側の宣伝を鵜呑みにした報道しかしないマスコミの姿勢も問題だと思いました。
お芝居の方は、幕開きが《寿祝歌舞伎華彩(ことぶきいわうかぶきのいろどり)》という外題の、昭和二年に昭和天皇即位奉祝のために作られたという所作事(舞踊曲)。初演は十五世羽左衛門が雄鶴、六世菊五郎が雌鶴を踊ったそうです。今回ももともとは團十郎の雄鶴に藤十郎の雌鶴という配役が予定されていたのですが、團十郎の物故により鶴は一羽という公演になりました。奉祝気分は味わえますが、どうも地味で退屈。「曽我もの」のような歌舞伎らしい豪華絢爛な幕開きをなぜ企画できなかったのか、と思います。
次は「十八世中村勘三郎に捧ぐ」と銘打たれた《お祭り》。これも清元による舞踊劇。踊りがうまい三津五郎、橋之助らがそれなりの芸をみせますが、延寿太夫の喉はあいかわらずで、清元連中の不ぞろいな発声が興を殺ぐ感は否めませんでした。
唯一引き締まった狂言だったのが《熊谷陣屋》。吉右衛門の重厚な直実に、玉三郎の相模、仁左衛門の判官、歌六の弥陀六などの芸達者が並び、格の高い芝居を見せてくれました。この顔ぶれの中では菊之助の藤の方のみがちょっと「家賃が高い」という感じがしました。