春分の日の休日、新国立の《アイーダ》公演に行ってきました。
劇場に入ると、タイトルロールのミカエラ・カロージに故障があり、全く聴いたことのないソプラノ、ラトニア・ムーアに変更との張り紙が。
オペラにはつきものとはいえ、ちょっとがっかりした気分でプログラムを眺めると、このムーアという人、2012年3月にメトロポリタン歌劇場でウルマーナの代役として急遽出演して大喝采を浴びたとあります。あの広いMETで通用したのだから、それなりの歌手に違いない、と少し気を取り直して聴き始めたところ、これが大当たりの代役でした。
黒人系の歌手に特有の少し暗みがかった豊かな響きがあり、声そのものを聴くだけで快感を感じられる美声です。私はレオンタイン・プライスをナマで聴いたことはありませんが、レコードで聴く限り、よく似た声質ではないか、と思います。
しかも、イタリア・オペラの様式感という点では、L・プライスよりずっと上、ヴェルディの歌唱として全く違和感のない歌い回しです。第3幕のロマンツァ<わが祖国よ>やラダメスとの二重唱ではまだ粗削りのところもありましたが、第1幕の<勝ちて帰れ>は出色の出来で、この作品をナマで10数回は聴いている私にとってもベストのひとつではないか、と思われました。
強い声を単なる馬力で推すのではなく、陰影のある響きを活かして、恋人と親兄弟が戦うことになったヒロインの引き裂かれた悲痛な思いがせつせつと伝わる演唱だったと思います。(容姿についてはあえて言及しません。)
ラダメスを歌ったウルグアイ出身のテノール、カルロ・ヴェントレは、今までに、カターニア歌劇場来日公演《ノルマ》、マチェラータ音楽祭《ノルマ》、ヴェローナ音楽祭《カルメン》で聴いたことがあります。
2006、07年の《ノルマ》では、ポリオーネにしては声が軽いと感じたものですが、2010年のドン・ホセでは声の強さが増しており、立派なリリコ・スピントになっているのに驚いた覚えがあります。今回は、響きのよい新国立ということもあり、全く不足感のない逞しいラダメスで、重量級の女声陣と十分に渡り合っていました。
マリアンネ・コルネッティのアムネリスを最初に聴いたのは、1998年のヴェローナ。それ以来、サントリーホールオペラやボローニャの来日公演などで日本でも何度かヴェルディを歌っているアメリカ人メッゾソプラノ。メッゾにしては明るい声で、似たタイプのコッソットやザジックほどの華やかさはないものの、力強さは同等で、それなりに手堅い歌唱を聴かせます。今回も、ソプラノとの音質の対比からいうともう少し低音が効いてほしいとは思うものの、声の強さ、表現力という点では悪くない出来でした。
これら主役3人以外は日本人キャスト。その中では、やはりア
モナズロを歌った堀内康雄が印象的。目をつぶって聴けば一流のイタリア人バリトンと比べても全く遜色がありません。
ドイツ人指揮者ミヒャエル・ギュットラーもヴェルディの様式感をよく理解し、派手に鳴らすべきところはきちんと鳴らしてくれる熱気のある良い演奏でした。
私は、新国立劇場開場の頃に海外にいたので、このゼッフィレッリのプロダクションを観るのはこれが初めて。いかにもゼッフィレッリらしい実に豪奢で美しい装置、小道具、衣装で、楽しめました。大満足の公演でした。