3月16日(土)19:30~《ドン・カルロ》
ドン・カルロ:ラモン・ヴァルガス
エリザベッタ:バルバラ・フリットリ
ロドリーゴ:ディミートリ・フヴォロストフスキィ
フィリッポ:フェルッチョ・フルラネット
エーボリ姫:アンナ・スミルノワ
大審問官:エリック・ハルフヴァーソン
修道士:ミコロス・セメスティェン
デバルド:ジェフェニファー・チェック
審問官:トンマーゾ・マテッリ
指揮:ロリン・マゼール
演出:ニコラス・ハイトナー
装置・衣裳:ボブ・クロウリー
照明:マーク・ヘンダーソン
METの《ドン・カルロ》は日本公演も含めてこれで4回目(ハイトナーのプロダクションとして初めて)となりますが、歌手陣の充実ぶりはこれまでで一番であったと思います。特に良かったのは低音歌手陣。フヴォロストフスキィとフルラネットがいいのは当然として、エーボリのスミルノワと大審問官のハーフヴァーソンが迫力満点で予想以上の出来だったため、無理をしてニューヨークまで来た甲斐があったと思える大満足の公演となりました。
スミルノワをナマで聴くのは2009年ヴェローナでの《アイーダ》以来。その時も中高音は力強いと感じましたが、さらに成長しているようです。アムネリスほど低音のドスを効かせる必要がないエーボリは彼女に合っているともいえますが、2シーズン前のMETライブビューイングでこの役を歌うのを観た時よりも明らかに成長しているように感じました。特に聴かせどころの第4幕<呪われしわが美貌>では、メッゾにとってはやっかいな超高音のCisを全く高いと感じさせない力強い胸声のままで長く伸ばしてみせるなど、絶好調ぶりを発揮しました。2年前よりも見た目、演技もよくなり、堂々たるエーボリだったと思います。
大審問官は、来日公演の時のコーツァンも悪くなかったですが、アメリカ人バス歌手ハーフヴァーソンはそれ以上に凄まじい低音の持ち主で、思いきり皺くちゃにメークした老人ぶりの演技も素晴らしく、全くもって不足のない敵役ぶりでした。経歴をみるとファフナー、フンディング、ハーゲン、オックス男爵、ザラストロなどまさにプロフォンドな低音を効かせるバスの諸役を得意としているようですが、高音の伸びと響きもあるので理想的な大審問官といえましょう。
2009年のスカラ、2011年のMETの来日公演で聴きそびれてきたフリットリのエリザベッタは、見た目の美しさと誇り高く能動的に生きようとするヒロインを表現する演技という面ではぴったりでした。しかし、以前のそれぞれの来日公演で私が聴いたカロージ、ポプラフスカヤに比べると、やはり声の強さにやや劣るものがあり、一長一短というところ。全幕に出ずっぱりで、その最終幕にアリアと二重唱があるのだから特に5幕公演のこの役は本当に大変。最後はやはり息切れ気味で、高音を叫ぶように振り絞っていたのと、第4幕で「Giustizio!」と騒ぐところがイタリア人の割には言葉が不明瞭になっていたのが残念でした。
83歳のマゼールの指揮も、テンポがゆっくりすぎると感じるところはありましたが、決して緊張感が緩むことはなく、派手ではないものの様式感を踏まえた立派な演奏でした。
ハイトナーとクロウリーのプロダクションは、抽象と具象の折衷的な舞台で、HD放映(ライブビューイング)で観たときには中途半端な感じがしましたが、ナマの舞台で観ると、鮮やかな色彩とコントラストの強い照明により、それなりに印象的で美しいものに仕上がっており、あまり違和感はありません。HDはアップが多く、舞台全体を映すショットが少ないので、こうしたプロダクションの真価が伝えにくいものになっている、と改めて思いました。