エレクティオン ガイドのおばさんはこういう言い方をしていた。
「アクロポリスは、2度にわたって大きなダメージを受けた。第1回目は、トルコと対立していたベネチア共和国が1687年にここを攻めたときに、やや離れた丘の上に大砲を据え置いて、この丘を狙って砲撃し、1発の砲弾が命中して神殿の中に置かれていた中の砲弾が爆発し、アクロポリスの屋根が吹っ飛んだ。そして2回目は19世紀、イスタン ブールに駐在していたイギリス大使のトーマス・エルギンがこの神殿の装飾を奪っていった。想像してみてほしい。何百人もの人が寄ってたかってを神殿から彫刻をはぎ取っている様子を。彫刻の中には船に乗せてイギリスに運ぶ途中に、沈んでしまったものもある」
そういうわけなので、この考古学を愛するガイドには、イギリスに対しておおいに含むところがあるようである。屋根を吹き飛ばしたベネチアにはあまり恨みはなさそうだ。
「日曜はダメよ」に主演し、後にこの国の文化大臣を務めたメリナ・メルクーリは、大英博物館に対してアクロポリスの彫刻を返還するように求める運動を起こした。彼女が死んだ後は、それを歌手のナナ・ムスクーリが引き継いでいるのだそうだ。
私は大英博物館で、アクロポリスの正面の破風を見たことがある(エルギン・マーブル。下の写真、これは東側正面の、アテナイの誕生を描いた破風の一番端っこ)。それは見るからに素晴らしい、力と美しさにあふれた造形だった。
エルギン・マーブル
正面の破風の彫刻群は、主神であるアテナイの誕生の場面を描いている。アテナイは海の泡から生まれた女神で、気性が荒く武器を持って生まれてきた様が表されている。手芸や農業の守り神。のちに知性や理性の神。
裏側の西側の破風は、アテナイの守護神の権利をアテナイとポセイドンが争った時のエピソードを描いている。ポセイドンはアテネ市民に水を提供することを約束し、アテナイはオリーブを提供することを約束した。アテネ市民はオリーブを選択したため、アテナイがアテネの守護神になったという神話である。アクロポリス博物館にこの破風の復元模型があるが、それを見ていると、もしこれがこの神殿の上に実際にあれば、現在の姿から比べると相当に壮麗な建築物であったことが想像される。
この主神殿からやや離れた入口寄りに、エレクティオンという小ぶりの神殿がある。紀元前480年から405年にかけて建てられたものだそうで、スパルタとの戦いに勝った記念に建てられたのだそうだ。いろいろな神にささげられた部分が合体して作られた変わった建築なのだという。
復元された部分は、ちゃんと後世の人がわかるようにするためにやや色の違う大理石を使用して補修されている。この神殿で目を引くのが、張り出した屋根を支えている6人の少女たちの立像である。これはレプリカで、本物は、4体はアクロポリスの丘の上にある博物館で見ることができる。もう1体は大英博物館にあるそうだ。
ところで、現在の神殿の横には無粋なクレーンが置かれており、市内からでも神殿の中でクレーンがもぞもぞ動いているのを確認することができる。実に艶消しである。
現在アクロポリスは20年がかりの修復作業を行っているそうだ。このクレーンはその作業のために必要なもので、フランス製なのだが、設計はギリシャ人が行った。塗装を大理石と同じ色にし、神殿の中にちゃんと隠れるような大きさにしておいて、なるたけ目立たないように工夫しているのだそうだ。
修復をすると、また新しい発見があるので5年間修復をして5年間研究をするという繰り返しなのだそうだ。