しばらく歩いて、バスの中でガイドのおばさんが「ここはすごく面白い」と説明していたコイン博物館に行ってみる。
どこかの財団がやっているらしく、素晴らしく美しい宮殿のような建物である。天井の装飾や内装をも素晴らしい。
それで、地上最古のコインは、ギリシャ製なのだそうだ。サモス島で紀元前7世紀に作られたものだそうである。それを見ることができた。
しかし通貨として通用していた石はもっと古く、紀元前17世紀のエジプトの石ころが置いてあった。「どうしてこれがただの石ではなく、ちゃんとした通貨だということがわかるのか」と聞くと、カットの仕方によって分かるのだそうだ。ほんとかなあ。この形の石を担いで運んでいるエジプトの絵があったので、何か値打ちがあるものであることは分かるのだが。
この博物館は、膨大なコインのコレクションを持っているようだ。好きな人にはたまらないところだろう。
ちなみにユーロは紙幣もコインも、自国で自由に工夫できるようになっている。ギリシャの1ユーロコインにはアテナイ神が刻まれている。そして2ユーロコインにはオイローパが刻まれている。この女神はヨーロッパの語源である。
この博物館のならびに、さっきの大学や図書館など3つの建物が立ち並ぶ擬古典的空間がある。独立して間もなかったギリシア政府が、自分たちのアイデンティティを示すために作ったシンボル的な空間である。
大学の建物に近づいてみる。ギリシア神殿風の建物で、屋根の破風の飾りや屋根の周りの細かい飾りが美しい。おそらくアクロポリスもできた当初はこのようなきらびやかな建物だったのだろうと想像するのに良い材料を提供してくれる建物だ。中に入ってみると、大学の建物の正面の部屋は立派な講堂になっている。壁の色大理石が美しい。入口のホールの横に何やらいかめしいおじさんの立像が当たっていたのでこれは誰だとたずねると、シモンシーナスだという。誰なんだ一体。
その大学の前に、地下鉄の乗り場の入口をやっと発見。
ここから国立博物館に行こうと考え、多分地下鉄で3つくらいいったところだろうと見当をつけ、窓口で切符を買って行ってみることにする。
アテネの地下鉄は3路線ある。一番新しい地下鉄の路線を作るときには遺跡が5000箇所発見されたそうだ。京都の地下鉄の比ではない。
広いスペースをとってあるコンコースで、発掘されたつぼや土器などが展示されている。後で行ったシンタグマ広場の駅では、発掘された人骨すら展示されていた。展示にも工夫が凝らされていて、地下鉄駅というよりは博物館といった趣すらある。
地下鉄に乗って「このへんの見当だな」と思ったところで降りる。ホテルでもらった地図がいい加減なので、場所が良く分からない。ガイドブックがないと一番困るのは、インフォメーションでもらうことができる地図は必ずしもちゃんと観光地を表示していないので、どこに行けばよいかわからないということだ。
街の中にも国立博物館という表示が全くない。人に聞いてみるが、英語がよくできる人がいない。どんどん歩いていく。経済大学があったので、そこの前でたむろしていた女子大生に、国立博物館はどこだと聞く。
ここまでで、駅を降りてからかなりの時間が経ってしまっていた。「政治大学の近くだ」と教えてもらった方向に歩いていくと、やっと博物館を発見した。入って切符を買おうとすると、切符売り場に人がいない。お節介そうな職員に「3時になったからもう終わりだ、また来い」といわれる。そりゃ無理だというと、じゃあ勝手にするさと言われてむかつく。
まあいいや、ここに何があるのか知らずに来ているわけだから、何か目的のものが見られなくて悔しい思いをして帰るわけでなし。どうせ壷が置いてあるくらいのものだろう。
博物館の敷地の中にあるカフェに座って、ギリシャコーヒーを飲む。コーヒーはここの名物なのだろう。街中でもコーヒーの材料を売っている店が目立つ。ローマのスペイン広場の前にあるカフェもカフェ・グレコなので、ギリシャはヨーロッパにコーヒーを伝える中継地点だったのかもしれない。それにしてもこのギリシャコーヒーというのは、粉っぽくて何がうまいのか私にはよくわからない。