古代のアゴラ この町では、ちゃんと国旗を立てている家が多い。それから街角にある時計の時間も正確に合っている。ローマの町には時計がいっぱいあるが、全部指している時間が違っている。そういう面では、かなりきちんとした性格の人々ではないだろうか。ある部分、日本人と共通するA型民族なのかもしれない。建築のセンスがないことなどもそっくりだ。
それから意外にも、アメリカのプレゼンスが大きい。第2次世界大戦後、トルーマンがかなりの支援をこの国に行い、それが重要な復興資金となったようだ。
ホテルで飯を食べ、チェックアウトしてから、銀行に行く。やっと晴れている。今日は金曜日なので、トラベラーズチェックを両替しておかなければ、ウイーンについてから買ってもらっていたオペラのチケットを受け取ることができない。
600ユーロを両替してくれと頼むと、200ユーロのチェック3枚にそれぞれサインを求められる。それで両替してくれるのかなと思ったら、実は1回の両替は300ユーロまでなので、1枚しか換金できないといわれる。まぬけである。昼になると銀行は混むので到底並ぶことはできない。だからわざわざ朝来たのだが、どうにもならないものだ。
腹を立てながら、プラカ地区の美しい町並みを眺めつつ、アゴラに向かう。
アゴラこそ、民主主義のスタート地点である。アクロポリスの丘の北側の、昨日通ったのと反対側をぐるりと回って、柵に囲まれた遺跡が見えてきた。これがアゴラなのだろう。入場料1.47ユーロを払って入る。
アゴラの遺跡は、大理石の敷石が大部分残っている広場の周りに、この広場を囲んで立っていたであろう建物の回廊の柱が相当数残っている。この回廊の周りには、排水溝も残っていて、この時代の人々がほぼわれわれと同じような生活環境を手にしていたことを知ることができる。
「素晴らしいことだなあ。ここで古代の人々が、国政を語り、自分たちのを都市を自分たちで治めていたのか」と感慨に浸っていると、子犬が数匹トコトコと駆けてきた。シェパードのようだ。遺跡に動物がつきものだとは分かっていたが、子犬が迎えてくれたのは初めてである。周りを見回してみると、両親が遠くの方から見守っている。私は大理石の上に腰をかけて、パソコンを取り出し、次回作の締めくくりを打ち込んだ。子犬たちが横で、じゃれあっている。
打ち終わってふと気づいたのだが、この遺跡は"ローマン・アゴラ"と書いてあった。とすると、ひょっとして古代ギリシャ時代のアゴラは別にあるのではないのだろうか。切符売り場まで戻ってきておばさんに聞くと、ああそれならこの奥だよと教えてくれる。なんてこったい、これは帝政ローマ時代の遺跡じゃないか。
民家を越えてすぐの所に、"古代のアゴラ"と書かれた広い遺跡があった。入場料3.52ユーロ。
こちらの方は、ローマ時代のアゴラに比べて、保存が悪い。また形が残っている遺跡があると思ったら、紀元前15年にアグリッパが建てた劇場であったりする。
しかし、こここそが、今から2500年前に初めて民主制を成立させ、実際に機能させた場所に違いない。
2500年後の今日、われわれは彼らを超える政体を手にしたであろうかと自問しつつ、ぐるりと一回りする。ここでカメラの電池が切れたので、なんと残念なことに古代アゴラの写真はない。