ホテルをチェックアウトする。電話代は現金で払わなければならない。ユーロを出すと、ホテルのオヤジは、「これがユーロかあ」と、しげしげと眺めている。そして、「このユーロ札は持って帰って子供に見せたいので、お前から買いたい」と言っている。
それ、あんたのところの自国通貨なんだけどなぁ。しかし私としても、おそらくこの調子ではほとんどリラしか使えないはずなので、両替は歓迎である。これで何千リラか手に入った。
ホテルを出て、中央駅の地下鉄乗り場に行く。ミラノでの目的は、スカラ座のチケットをダフ屋から買うこと以外にはない。直前までこの時期に決行するかどうか決めかねていて、年末ギリギリに飛行機の切符を買ったので、郵送による予約なんてとてもできない。日本での情報は錯綜していた。スカラ座は3年間の修理に入るのだが、それが年末からであるという話と、1月末からであるという話があり、どちらか確認できなかったのだ。
いずれにせよスカラ座の公式サイトにはオテロの公演をやっていると書いているので、行ってみればチケットが入手できるはずである。
チケットの買い方がわからないので苦労しながらやっと地下鉄のキップを買って、ドゥオーモに向かう。
ドゥオーモの駅では、対面式のホームになっているのだが、その柱の間に投影式のプロジェクターがあって、広告やニュースなどの動画が流されている。音も流れている。ミラノだけではなく、ローマでも、ウイーンでも、プラハでも、こうしたシステムがあった。ヨーロッパでは、地下鉄内で動画を提供するのは普通のことらしい。これは日本にはないことである。
この駅の出口のところで切符の検察をやっているのを初めて見た。5人ぐらいの係官が、いちいちチェックしている。捕まっている人も何人かいた。検札を見たのは初めてだ。やっぱり切符を買って乗らなくてはいけないんだなと理解した。
腹が減ったので、またチェーン店らしき店でサンドイッチを買って、ドゥオーモの見事なざファサードを見ながら食べる。旨い。
そろそろ12時を過ぎたので、スカラ座に行ってみよう。ビットリオエマヌエーレのアーケードのモザイクをを見ながら、スカラ座までぶらぶら歩く。近づいてみると、どうやら閉まっているようだ。何かおかしい。貼ってあるポスターを見ると、既に修理は始まっていて、公演はなんと今月の19日までないということがわかる。インターネットのサイトに書いてる日程と全然違う。要するに私は、今回はスカラ座の公演を見ることができないということが、ここに来て初めて分かった。あまりのショックに言葉もない。これでは何のためにミラノに来たのか。
どうしてこう、死ぬほど人が並んでいるのか? まあいいや、こんなことは、旅行でよくあることさ。と気を取り直して、ボローニャのホテルでも予約しようと、アーケード中央のキューポラの下にある代理店を覗くが、「最低でも3日以上の連泊じゃないと予約できない」と断られる。どうにもならない。もうヤケクソで、とっとボローニャに移動しようと地下鉄に乗ろうとするが、自動販売機しかないのでリラのコインを持っていない私は切符を買うことすらできない。
いったん地上に出て銀行を探し、銀行の窓口に行って「ユーロをリラに両替してくれ」というが、「そんなことはできない」とあっさり言われる。どうしようもない。結局リラの札をコインに両替してもらって、何とか地下鉄に乗り中央駅まで戻ってきた。時間の無駄としか言いようがない。ホテルに戻ってトランクを取ってきて、ポローニャに向かうインターシティに乗り込む。