朝起きて、下のピッツエリアで菓子パンとカプチーノだけの朝食をとる。地図を頼りにバス停を探す。バス停は見つかったが、切符を買わなければならない。切符はだいたいニューススタンドで売っている。0.77ユーロor1500リラ。リラに合わせると、ユーロに端数が出、リラに合わせるとユーロがこのように半端になる。そのため小銭が財布にドンドン溜まっていくことになるのだ。
切符はあるかと訊ねると、「あるんだが、ユーロの釣り銭がない。隣のスタンドに行け」と言われる。隣のスタンドではちゃんとユーロの釣り銭が用意してあった。どこまで乗っても、何回乗っても90分間有効のチケットである。さて、路線図を頼りにバスに乗り、何となく港が見えてきたところで飛び降りる。アナウンスなどないのだから、ドタ勘だけである。ここまでくると、自分でもすごいなぁと思う。
それでもなんとかまっすぐにカプリ島行きの船が出る波止場についた。ところがチケットブースが10個近く並んでいる。「ここがカプリに一番早い速い船か」と訊くと、「いやこれはフェリーだ」と言われ、結局一番端っこのブースまで行って、高速船のチケットを買う。10.33ユーロ。
船は9時15分にナポリの港を出た。双胴船である。ナポリ湾は波平らかで、船は滑走するように進んでいく。座席で本を読んでいると、初老のおじさんがやってきて、「島をバスで回る安くて便利なツアーに参加しないか」と誘ってくる。私は、目的地は「青の洞窟とティベリウスの別荘だけなので、必要ない」と答えたが、おじさんはティベリウスの別荘までは歩いて往復2時間かかる。途中までバスを使うと便利だとかんに勧めるので、根負けして参加することにする。昼飯を含めて3000円くらいだし。参加の意思を表明すると、おじさんは赤い丸いシールを私の胸ポケットのところにぺたりと貼った。
岬の先端がティベリウスの別荘 カプリの港に着くと、みんなゾロゾロと船を降りていく。港の中に誰もいない閑散とした突堤があって、黄色い木製の小屋がぽつんと、突堤の半ばに立っている。さっきのおじさんがその小屋を指さして、「ここは青の洞窟へ行く船の出るところだ。見てわかる通り、だれもいない。今日は波が高くて船はでないということだ。もし船が出ていれば今から見に行って、それからツアーを続けるのだが、われわれはこれからまっすぐツアーに出発する」と言う。
港で待っているマイクロバスに乗り込む。全員で15人くらいだ。日本人は私の他に2人。バスは坂道を延々と上っていく。
さてこのカプリという島だが、ローマの大昔から風光明媚ということで有名だった。アウグスツスがナポリから取得し、ローマ皇帝が代々所有した。とにかく海は青く、空も青く、太陽がさんさんと降りそそぎ、空気がきれいで、傾斜地ばかりなので視界が開け、どこからでも眺めが良い。対岸を見るとほどよい距離にナポリやソレントを望むことができる。
面積は10平方キロメートル。人口2万人。一番高い山は589mの標高がある。海岸部は少なく、ほとんどの家が斜面か丘の上に立っている。昔は坂道ではなく石段が島中を巡っており、トータルで77万段もあったという。ガイドのオヤジは、「この島の産業は太陽だ。この島には水がないのが悩みで、ナポリや対岸のソレントから輸入しなければならない。だからワインを飲む」と言っている。
随分寒いので、「もうちょっと暖かいのかと思っていた」と言うと、今年の寒さは異常らしい。「普通の年だったら泳げるんだけどな」と言っていた。そこまで温かいとは想像していなかったが……。
バスはくねくねと曲がる細い坂道を上り切り、300mほどの高さのところにある集落で止まった。そこからは島で一番高い山に向けてリフトがスタートしているが、この寒い時に誰も乗っている人はいない。
そこから、海に向かって細い道が伸びており、両側に土産物屋が点々と続いている。ツアーの一団はその店の間を通ってサンミケーレという別荘の真下までゾロゾロと歩いていく。眼下にさっき降りた港を、その先にティベリウスの別荘を望むことができる絶景の地である。その先にはソレントの半島、その隣にヴェスヴィオス火山、ナポリと続いている。真下を見ると、足がすくみそうな断崖になっていて、そこから覗き込む断崖の足元は、サファイア色にきらめいていて、他の海の色とは違ういわく言い難い輝きを放っている。ガイドによると、この部分が青の洞窟への入口らしい。