「帰れソレントへ」で帰ってくるのはこの岬。
青の洞窟は、アンデルセンの「即興詩人」(鴎外の訳文は素晴らしい)にも描かれていて有名な景勝地である。海から入る洞窟自体は非常に背が低いのだが、外の光が洞窟の海底に反射するため、海の底が青く光り、何物にもたとえようがないほど幻想的な雰囲気を作り出す空間であるという。しかし波が少しでも立っていると洞窟に入れないので、1年を通してみても、見られる時間は非常に限られているそうだ。この洞窟に1度入ってみたいとわざわざ日本から何度も通ってくる人も少なくないらしい。それほど魅力があるものなら、見てみたいものだと思わないでもない。
これで観光は終わり。45分の自由時間が与えられる。仕方がないのでみんな三々五々土産物屋に入っていく。
ここで売られているのはこの島の特産物であるレモンを使ったものが多く、リモンチェッロというリキュールや、レモンで作った香水、せっけんなど。「リモンチェッロがいま人気」などという見出しの日本の情報雑誌の切り抜きが窓に張ってあったりする。こうしたものは店の奥で作られており、ガラス越しにちゃんと製造工程が見られるようになっているのが面白い。そのほか、細かい絵柄を描いたタイルも名産のようだ。この島の通りを歩いていると地図や表札をタイルで焼いている家がかなり多い。番地の番号は総てこのタイルで統一されてる。
みんなおう盛な購買力で土産を買っていく。しかし重い瓶をこんなところから背負って旅行を続けるのだろうか。私にはよくわからない神経である。
土産物屋街の中で一軒だけ油絵を扱っている店を発見した。のぞいてみると初老の男性が熱心に油絵を動かしている。店の中にはベートーベンの交響曲が流れている。
しばらく見ていると、「あんたも絵を描きに来たのか」と言うので、「私は絵は描けないよ」と言うと、「では天才が描いているところを見に来たんだな」と言って絵筆を置く。「私の油絵はニューヨークの美術館も買いにきたんだよ」と自慢げに話す。「ホントかよ」と思っていると、店の奥でアルバムを手にして、「これがネパール国王との写真(もう死んじゃったけどな)。これがフェラーリの社長と、F1チームの人たちの写真、シューマッハのサイン入り。これがマライア・キャリーとのツーショット、これがテレビの取材、これがドイツの雑誌の記事、これが映画プロデューサーのディーノ・ディ・ラウレンティスからの手紙……」と、次々と見せてくれた。これはちょっとすごいかも。
「私のは光の表現に特徴があるんだ」と自慢げに話していた。ちょっと面白い。「クラシック音楽は私にインスピレーションを与えてくれる」とうれしそうだ。名刺をもらって去る。
バスに乗る前に有料トイレに行く。26セント。
そこからバスはまた港の方に降りていって、レストランへ。ペンネと魚のツアー飯を食べる。ティベリオという地元のワインを注文した。悪くない。
私の隣は、ドイツから来たという日本人の親子と、ロンドンから来たというシンガポール人の親子である。飯を食べ終わったころ、日本人の団体客がどっとやってきた。ユーラシア旅行社のツアーである。この会社はシニア層に絞ったマーケティングで成功したと聞いていたが、なるほど老人ばかりである。ツアーコンダクターが大きな声で「飲みもの代は別ですよ」と叫んでいる。そうこうするうちに、また別の団体が来た。こちらも日本人ばかりである。WHY SO MANY JAPANESE? BECAUSE I`M HERE.と言ってガイドを笑わせる。
昼飯を食べてバスは島にあるもうひとつの集落の方に。こちらの方が開けている。ここで2時間時間を潰してツアーは終わりらしい。なんという、何もないツアーだろうか。ここから少し降りていったアウグストゥス庭園からは、奇岩が見えて眺めがいいらしいが、私はここで分かれてティベリウスの別荘を目指す。