考古学博物館の隣のブロックは美しいアーケードになっている。しかしまだほとんど店が開いていないし、まったく活気がない建物である。このアーケードの中を通り抜けると、ホテルは目の前である。ピッツエリアに行ってカードで精算し、部屋に戻ってトランクを取ってきて、ホテルの前でタクシーを拾い駅に向かう。
タクシーを降りてメーターを見て1万リラ払うと、「あと5000払え」と言われる。なんでやねんと思ったが、休日料金と、トランク代を入れるとそうなるようだ。「タクシーはぼる」という先入観があったので、ちょっと悪いことをしたなと思う。
駅で、夜シチリアのパレルモに出発する電車の寝台を買おうとしたが、寝台車は満席でクシェット(日本でいう2等寝台車)しかないという。仕方がないのでそれで行くことにする。トランクを荷物預かり所に預けるが、ここでもまたユーロとリラの計算で待たされた。何をするにしても非常に作業効率が悪い。なんでもてきぱきとこなす日本とは大きな違いである。それゆえ、とにかくみんな"待つ"ということに対しては寛容だ。
昨日ツーリストインフォメーションで「ポンペイに行く電車は地下から出る」と聞いていたので、地下駅へ。間違えて地下鉄に入ってしまい、ここじゃないと言われる。ナポリの町の地下鉄は1路線しかないのだが、恐ろしく複雑なルートを通っていて、とても素人に使えたものではない。
これは私鉄らしい。「ポンペイ!」と窓口で言うと、往復かどうか尋ねられ、往復のチケットをくれた。3.36ユーロ。地下のホームでソレント方面に向かう電車を待つ。この駅のホームにいる人たちの表情は、何か怠惰が支配しているような気がする。実に、ローカル線である。
11時30分、電車がやってくる。目の前に神父が座り、何かごにょにょお祈りの文句を唱えながら、さかんに十字を切っている。窓の外を見ていると、だんだんとヴェスヴィオス火山が近づいてきて、電車は大きく南麓に回り込む。43分でポンペイに着く。国鉄だともっと早いようだ。
「ポンペイの駅前に遺跡の入り口がある」と言っていたが、駅を出たところには商店街と、大きな教会しかない。いったいどこに遺跡の入り口があるのかさっぱりわからない。
とりあえず腹ごしらえをしようと思ってトラットリアに入る。トマトソースのスパゲティを頼む。7000リラ。たった350円である。しかも実にうまい。今どき大学の生協のケチャップスパゲッティでも350円で食べることはできないだろう。まあ値段は別にしても、この味を日本で食べられるところを見つけるのはなかなか骨である。
駅の周りを歩き回って、遺跡の入口を探すが、さっぱりどこなのか見当がつかない。表示も全然ない。これが日本の観光地であるならば、うるさいほど「見どころはこちら」と書いてあるはずなのだが、イタリアではそのような気遣いはない。
ぐるぐる回ってまた駅に戻ってくる。駅では野良犬が愛きょうを振りまいている。ジェラートを買って食べる。でも何の解決にもならない。しかたがないのでその辺を歩いている人を捕まえて聞いてみると、「アッチの方だ」と教えてくれる。駅から商店街を歩いて500m所のほど行ったところに遺跡の入口があった。