マッシモ劇場 カタコンベを後にし、ビットリオエマヌエーレ通り沿いの他の教会を覗きながら駅の方に戻ってくると(とにかく教会しか見るものがない)、偶然長距離バスの停留所を発見する。"カターニャ行き"と書いてあるので、「おお、ここで切符を買っておけばよいのか」と思い、時刻表をもらって「明日の1時発のバスの切符をくれ」というと、「バスはない」という。満席なのかなぁ、よくわからない。粘っていると、どうやら明日の切符は明日買いに来いということらしい。しかしイタリアに来て以来、交通機関はすべて満席なので予約をしていないと不安なものがある。
5時30分。暗くなってきたので、旅行代理店に自転車で戻ってくる。
デスクには、さっきのおばさんがいなくなって、お姉さんと若い男性が座っている。そこで、「明日のギリシア行きの飛行機のチケットを買いたいと申し出る。
ところが調べてみると、カターニャ~ローマ~アテネ~ローマという切符の値段は昼間おばさんに聞いたものと比べると随分高い。航空会社や便の組み合わせによって値段が全然違うみたいだ。ではどういう組み合わせにするのかということをさんざん相談しながら探していると、ここで1時間半も使ってしまう。
アテネからウイーンに直行する便を組み合わせると970ユーロになるというのまで出してみたが、それではあんまりである。結局昼間のおばさんに電話をして正しい組み合わせを聞き417ユーロでチケット作ってもらう。お互いに大変な努力である。もっと早く予約をすれば、もっと安くなるらしい。
それにしても、たった417ユーロのチケットを手に入れるために1時間半もかかるとは、滅茶苦茶非効率としか言いようがない。日本では考えられないことだ。この国の生産性はかなり低いとしか言いようがない。しかしそんな段取りの悪い国と比較しても、わが国の国債の格付け、すなわち政府の信用は低いのである。これを一体どう考えればいいのだろうかと思わずにはいられない。
宿に荷物をおいて、駅の方にふらふらと歩いていく。このあたりは家具屋街になっていて、高級なものから安っぽいものまで家具を扱う店が立ち並んでいる。中にはレースのカーテンを商う店や、中国服を扱う店も散見される。
駅前に出たが、なかなか適当なリストランテが発見できない。駅の正面に伸びるローマ通りを曲がって歩いていくと、路地の奥に一軒トラットリアを発見した。入ってみるとだれもいない。おかしいなと思うとコックが「2階に上がれ」と言う。階段を上ると、クラシックな内装の店になっている。これはなかなかよさそうだ。最初は客が私しかいないが、8時を超えるとどんどん家族連れの客が入ってきてうるさくなってくる。
さっき道端で屋台を出して魚屋で、太刀魚がとぐろを巻いて光っていたのがおいしそうだったので、パスタは太刀魚を使った幅広のパスタを頼む。魚が入ると味が眠くなるような気がするが、これはシチリア風なのかもしれない。ワインはDistintoというシチリアのワインを頼み、魚は何が新鮮かと訊くと「イカがいい」というので、イカのフライを頼む。素材が新鮮で、揚げ具合も非常によく楽しんで食べられた。
カンノーロ 何かシシリアンなデザートはないのかと聞くと、カンノーロというのがあると言う。これは筒状のパイ生地の中にクリームを入れた菓子である。甘いけれどいやらしくない甘さだ。シチリアの人は揚げ物が好きなのかもしれない。そしてこれは、「ゴッドファーザーPART3」のマッシモ劇場のシーンで、ドンの妹が毒を仕込んで敵に食べさせていた菓子と非常に似ている。
そういえば、自転車を借りた旅行代理店のすぐそばにマリオネット博物館というのもあった。各地から集められた人形を展示しているらしい。この島では人形劇が盛んであるようだ。ゴッドファーザーも、そもそものタイトルは「ザ・マリオネット、ゴッドファーザー」だったわけで、そう考えるとあの映画の中にはシチリア島の風物が不自然なほどぎっしり詰め込まれているようである。ついでなので、PIEMMEという名前のリモンチェッロを頼んで飲む。
ウエイターが6人もいて、いい年の男が用もないのにあちこちうろついていて目障りで仕方がない。この店のウエイターはとっきにくい感じがする。そのくせ支払いをするときだけ必死になって「この料理は幾らだ」とか説明に来る。チップを入れて22ユーロ払うと、納得して散らばっていく。「なんなんだこいつらは」と思う。しかしこれだけ飲んで食べてこの値段というのは天国だ。
ホテルも近くのバールでエスプレッソを飲んで帰る。