ホテルの朝食はろくなものではない。今日も午前中は市内観光するために自転車を借りたいのだが、代理店が開くのは朝10時なので、海岸の方に散歩する。パレルモの港の入り口には、大きな岩山がそびえ立っている。古代からパレルモの港を目指す人々には、この岩山が天然の目標となっていたのだろう。
旅行代理店に寄って英語のできないおばさんから昨日と全く同じ自転車を借りる。それでまた町中を自転車でどんどん走っていく。マッシモ劇場の前では、観光馬車が暇そうに屯している。午前中はオペラ座のロビーに入れるようなので、冷やかしに入ってみる。自慢するだけあって、たいそう立派な劇場である。
それから王宮まで自転車を走らせる。しかしどこが入口なのかさっぱりわからない。裏側は、議事堂になっているらしくこちらからは入れない。散々迷って人に聞いて、やっと入口がわかる。どこにも表示がないし、観光客はこれだけ大きな王宮の回りをぐるぐる回らなければならない。私は自転車だからいいが、歩いて来た外国人にはかなり不親切なものがある。
バラティーナ礼拝堂 王宮に入ってみると、ビザンチン風の回廊が中庭を取り囲んでいて、中庭に面した2階にあるバラティーナ礼拝堂はその外壁から聖書に題材をとったモザイクで飾られている。中に入ってみると、小さな礼拝堂であるが壁も天井も一面のモザイクで装飾されているすばらしい空間だ。ビザンチンとノルマン様式の折衷で、非常に豪華な印象を与える。天蓋はキリスト像を中心にして聖人が描かれており。それ以外の部分も、聖書をモチーフとしたモザイクで埋め尽くされている。床はアラベスク模様だ。
この礼拝堂は13世紀にノルマン王朝によって完成された。とはいえ、これらのモザイクもベネチアのサンピエトロ寺院の目を見張らせる素晴らしさに比べれば一歩譲らざるを得ないと思う。
また自転車をこいで駅前に戻ってくる。駅前のインフォメーションで長距離バスの発着場はどこにあるのか教えてもらう。また昨日のバス乗り場に行って、カターニャ行きの切符を買う。11.62ユーロ。またしてもユーロの計算で手間取っている。
イタリアではユーロとリラの換算が大変なので小型の計算機が大変なヒット商品になっている。駅や地下鉄の車内などの人のいるところにいると、物売りがやってきてさかんに「計算機はいらないか」と勧めてくる。
切符売場のおじさんは全然英語が分からないのだが、通訳をしてくれている有色人種のおじさんはなんとトイレ番である。失業率が高いのだろう。やっと切符を買ったのだが、時間指定はしていない。「1時間に1本あるからいつでも乗れるよ」という感じである。
旅行代理店に戻って自転車を返す。お別れを言うと、おばさんは「会えてよかった」と底抜けの笑顔で握手してくれる。腹の中に何もなさそうな人たちである。
ホテルに戻って4000円を両替し、タクシー代を捻出する。タクシーに「駅まで幾らでいくか」というと、2万リラという。完全にぼっている。「ふざけるな。8ユーロで行け」と言うと、換算率がわからないふりをしている。タクシーは実に質が悪い。ぼらないタクシーを見つけるのは不可能である。バス停まで来て2万リラを渡し、釣りをくれというとリラで払おうとするので、めんどくさいので「もういい」と突き返すと、完爾と笑う。 しかしこれだけ飲んで食べてこの値段というのは天国だ。
ホテルも近くのバールでエスプレッソを飲んで帰る。