売れない時代に俺は売る
「プレジデント」はその後90年代になって、さっき言ったようにものすごい部数が捌けていたのが、だんだん売れなくなってきました。
理由は、おそらく読者の高齢化ですね。売れなくなった順番というのは、陸軍ものが売れなくなって、海軍ものが売れなくなったんですよ。戦国武将の方は、たしか秀吉がダメになって、信長がダメになって、家康が最後まで残ったんじゃなかったかな。日本人には、家康がやっぱり一番人気があるんですよ。いずれにせよ、
そういうものを喜んで買っていた人たちが、卒業していったということがありまして、部数が頭打ちどころか減ってきたぞと。どうすればいいんだということで、今度は、ノウハウとかスキルとか「なんとか力」なんていうようなものですよね。そっちを考えようとしていったのが、90年代中頃、93年くらいからです。
僕なんかは、この時に一番尖兵に立って、切り込み隊長をやっていたんですよね。だから、たとえば僕がやった一番のヒットというのは、「営業もの」というやつなんですけれど、95年3月号の「売れない時代に俺は売る」というタイトルでやった特集。一年上の先輩と考えたんですけどね。
「営業」なんていうのを一般ビジネス雑誌で取り上げるということは、当時考えられなかったんですよ。
でも「どう考えたって、世のビジネスマンの中で営業マンが多いんだから、営業ものをやったら売れるに違いないじゃないか」というふうに、僕は編集長に言ったんですけれど、「そんなの売れないよ」と言われちゃって。やっぱり以前と同じようなネタじゃないと売れないんじゃないかというすごい思い込みがあるんですよ。だけど、やってみたら瞬間蒸発で完全に売れちゃったんですね。それで、「営業は売れる」というので、他のビジネス雑誌も全誌追随しましたね。偉そうなことを言っていても、そんな恥知らずな業界なんですよ、実際。
そんな感じで、いろんなパターンで、たとえば「じゃあスキルものをやろう」と。スキルとか「なんとか力」なんていうのも、それまでは取り上げることができなかったものなんですよね。でもアメリカでいろんな開発が進んで、それを日本でコンサル会社が輸入して教えるというふうなことが、当時はできるようになってきていたわけです。
CSにしてもそうだし、エンパワーメントとか、まあちょっといくとコンピテンシーモデルなんかもそうなんですけれど、あるいはコーチングとか、そういうようなものを誌面でわかりやすく展開するということで、個人のビジネスマンの役に立つようなものを載せるというのも、ビジネス雑誌のネタとしていいんだというところまで広がりを見せてきたのが、90年代であったと。
そこからあんまり質的な変化が起きているようには見えないなと僕は思うんですね。だから、この図のような感じで「企業もの」、それからちょっとした自己啓発というけど「歴史もの」っぽいものを入れたものとか、「マーケティングもの」とか。さらには、会社じゃなくてビジネスマン個人に役に立つものを載せるんですよというような感じで、時系列的にビジネス雑誌は変化をしてきたと。
経営ノウハウものとしては、「プレジデント」と「日経ビジネス」が抜けた分、それを埋めるように「ハーバードビジネスレビュー」や「一橋ビジネスレビュー」や、それ以外でも色々とありますし、それと別個の範疇として「専門誌」という範疇があります。