タクシー・ドライバー
このタクシーの運ちゃんには度肝を抜かれた。NYのタクシーをバカにしてはいけない。たとえばロースクールに通っていて、来年弁護士になるのだがあいている時間に一日5時間だけ運転しているとか、博士号を持っているとかいうのがいるので油断ならない。
でも基本的には移民が多く、英語がよく分からない人もいる。ターバン巻いているのも多い。あるTAXIには、座席の前に市長の名前入りの「乗客の権利」というのが貼ってあった。いわく「NYで英語の分かる運転手は、基本的にNY市内の道を知っている。乗客はどの道を通るか指定することができるし、運転手はその指示に従わなければならない。タクシーは、エアコンが利いてないといけない。乗客はラジオのチャンネルを指定することができるし、また消してくれと言う権利もある……うんぬんかんぬん」
イギリスでなくても、だいたい運ちゃんとの話は天気の話題から入るものである。
「いい天気だねえ」。私「イエス、ファイン」
「昨日は雨でひどかった。どこから来たい?」。私「東京から」
「そうかい。僕はギリシャからだ。ロードス島だよ。日本人もいっぱい来るぞ。『ギリシャ』って言うんだろ?」
私「ロードス島はベネチア共和国の重要な港だった」
「そうそう、歴史が長い。ところで今年のNYは観光客が多いよ。こんなのは初めてだ。日本人は金持ちが多いが、NYにも多いぞ。金持ちは5番街に住んでるんだが、どこに住んでるのかさっぱりわからないんだよね。いやー、連中は本当のNYの楽しみ方を知らないよ」
私「たとえば誰が?」
「不動産王のドナルド・トランプとかさ。知ってるかい? やつはクレージーだね。そういえば日本人もロックフェラー・センター買ったね」
私「三菱はすでにロックフェラー・センターを売ったよ」
「へー、そいつは知らなかったね。でも日本人は金持ちなんだろ」
私「僕はそうは思わないが」
「そりゃ、物価が高いからだろ。なぜ物価が高いのか知ってるかい?」
私「わからんね」
「簡単だよ。リーバイスのジーンズあるだろ。あれ、ここで買ったら50ドルだよ。ところがどうだい、ギリシャじゃ輸入したのが150ドルで売られてるよ」
私「日本なら100ドルくらいかなー、中国やロシアの方が高く売れるぞ」
「だから、高いものをなんでも輸入するから物価が高くなるんだよ。当然だよね」
私「なるほど」
「それから日本では、政府が物価統制していないかい?」
私「基本的にはしていないはずだが」
「ギリシャじゃ、タクシーの料金は規制されてるんだよ」
私「それは日本でもやってるね」
「でも、ギリシャでは安く統制してるんだよ。交通料金は安い方がいいよね。公共料金はギリシャでは安く統制されてるのさ。ほれ、MOMAに着いたよ」
私は言葉を失っていた。これは相当な切れ者である。彼は成功するに違いない。