メトロポリタンオペラ
7時直前、早足で歩いてリンカーンセンターに向かう。開演直前のため、切符もぎの人が早く入れとせかせる。
オペラの記事をつくる予定もあるので、少しひつこく記述しておく(オペラの記事は5月号「だからオペラは面白い」)。
メトロポリタンオペラは、世界で三本指に入る最高のオペラハウスである。この建物はNYフィルやシティ・バレーの本拠地、ジュリアード音楽院などとともに、リンカーン・センターという、巨大な複合施設の中にある。以前はスラム街であり、まさに「ウェストサイド・ストーリー」のロケ地であったここに1966年、新築された。運営主体は企業体ではなくNPOである。座席数は4000。しかし、座席が円形に配置されているためか、舞台はNHKホールなどと比べても非常に近く感じる。また、音響は大変よい。見事である。
座席は一階の平土間から6層に重なっている。このうち2階だけが桟敷席だ。ここは一種貴賓席である。正面から入って階段を少々上っただけでボックスの入り口にたどり着く。従って、退出するときも、他の客に煩わされることなく、きわめてスムーズに建物から出ることができる。ボックスの入り口は施錠されており、周囲にいる係員を呼んで、いちいち鍵を開けて入れてもらうのだ。ボックスに入ると、まず控えの間があって、ここに荷物をおいたり、コートを掛けておくことができる。長椅子の上にはプログラムが置いてある。オペラでもミュージカルでも、プログラムが無料なのは、ヨーロッパとアメリカの大きな違いだ。どうやらSTAGEBILLという会社が一社独占でやっているらしい。係員は扉を開けてくれ、これらの施設について説明し、自分の座席を教えてくれて、その上ご丁寧にも幕間が何回あるか、上演終了時間は何時頃なのか教えてくれて、ロビー側の扉を閉める。内扉をもう一つ開けて桟敷にはいると、3席×3列に可動の椅子が並び、そのうち扉分のスペースを占める一個が外された8席が1桟敷を構成している。これはウィーンの国立歌劇場やフォルクス・オパーとまったく同じ構造である。
オーケストラ席(1階平土間)の椅子はゆったりしているが、コートを背にかけたりしていると少し窮屈になってしまう。また特徴的なのは字幕の装置だ。すべての座席の前に、LED表示の字幕装置が付いている。ボタンを押せば、英語の字幕が見られる仕組みで、これは便利だ。
それから面白いのは、上演直前に、2階と3階の間にあって目障りなシャンデリア十数個が、するすると天井まであがっていくという演出だ。そうやって観客に「これからはじまりますよ」というメッセージを伝えるのである。
幕間には、客席から4000人が吐き出されてくる。一部は外出するとしても、大部分の客は館内の回廊やロビーに残るわけだが、これを捌く見事な空間が用意されている。いつでも、混雑しているという印象が感じられないから不思議だ。
ロビーの装飾で出色なのは、巨大なシャガールの2枚の壁画である。普段は日に晒さないためにカーテンが引かれているが、オペラが開かれる夜やマチネにはカーテンが開かれ、ビルの外からでも鑑賞することができる。幕間にこの絵を眺めながら、シャンペンを飲むと、最高の愉悦に浸ることができる。そのほか、ロビーには衣装の展示などが各階にある。また、各階に無料の給水装置がある。