自然史博物館.2
ここで、アメリカ人の親子が飛び入りで参加してきた。父親「これはガイドツアーですか。入れてください」。内心、ほっとする私。さらに部屋を進んで説明は続く。
「ここで、分化の重要な分かれ目に来ました。現代に至る分化の大きな分かれ目は2つありました。その1つが、関節に緩衝的空間があるかどうかなのです。それがないと、大きな体重を支えることができません」
と説明板を解説する。おばさんは異常によく勉強している。そしてそれに対応する骨を見せてくれる。ここを経て、われわれは進化の系統樹を一つ上に登り、ティラノサウルスやジュラシック・パークに出てくる恐竜の化石をごまんと見ることになる。ティラノサウルスの化石は見事なもので、恐ろしい数の断片を2年間かけて組み立てたものだそうだ。しかし、その断片が果たしてそこにくっつくのが正しいのかどうかははっきりわからないので、実は適当にくっつけているのだそうだ。なかなか正直だ。
恐竜の歯の解説により、私の連れが歯医者であることがわかった。歯医者は勉強熱心に説明を聞いているが、いい年の息子の方は余り興味がなさそうだ。
そして恐竜の時代の間に、もう一つの発生分化のポイントが来る。それが何なのか、実はこれを書いている時点では忘れてしまってよく思い出せないのだ。しかし、その分岐点を過ぎた後のトリケラトプスなどは、それ以前の恐竜とは違うものであるらしい。そして我々人類も、その2つの進化の関門を通って生き残ってきたという意味で、トリケラトプスの仲間なのだ。
膨大な数の魚類から恐竜、マンモスに至る全体骨格標本と、実際の骨を組み込んだ解説板、それに実際に骨に触ることができる工夫された展示方法。これらは1996年春に完成したばかりのものだが、発生分化の最新の研究成果を素人にも子供にも分かる形で示した素晴らしい展示と評価することができる。まず、化石のほとんど出ない日本では、これだけどんどん研究が進むということはないであろうし、ましてやその最新の知識をここまでわかりやすく展示するということは想像すらできないことだ。この水準の高さには驚嘆するしかない。なんとも凄いものだ。
おばさんにお礼を言って時計を見ると(私は旅行の時だけ時計を持っている)、ちゃんと75分きっかり経っている。後は館内を駆け回ろう。2階は民族+民俗博物館である。日本の展示も独立してある。あまり意味がある展示とは思えないが。それよりもアイヌというのがちゃんと独立しているところが、マイノリティに対する心遣いを感じさせて面白い。
1階には、マンモスの群(!)の剥製を囲んで、自然の中で生きる動物のジオラマが、うんざりするほどある。あまり面白いものとは思えないが、数で勝負だ。それから駆け足で人間の進化やら、宝石やら鉱物やらを見る。重さ34屯という隕石には、自由に触れることができる。宇宙からやってきたものに触れたのは、これが生まれて初めてであろう。月の石もなにげにあるのが怖い。確かこれが日本にやってきたとき、みんな行列して観たのではなかったのか? しかしここNYでは、だれにも省みられない月の石なのであった。
いかん、3階は見なかったが、とても全部回ってはいられない。やはり喰い散らかしたかたちで、預けた荷物を請け出して博物館を後にし、小雨が降っているのでTAXIでホテルに帰ってくる。