はじめてのアメリカ旅行記 レミゼ.2
インペリアル劇場は、2階席を持った、いかにも劇場らしい劇場である。正直言って、私は「レ・ミゼラブル」というミュージカルには、余り期待していなかった。しかし、うれしい誤算で掛け値なく、素晴らしい感動を得ることができた。ユーゴーの長大な原作を見事に舞台化した文句のない傑作である。こんなことを今頃いっているのは恥ずかしいことなのだろうが、今日まで知らなかったのだから仕方がない。
実はシンガポールの経済開発庁に行ったときに、連中が最後に「経済開発庁が、シンガポールで初めてミュージカルをやることにした。ぜひ見て行け」と言っていた。それが「レ・ミゼラブル」だったので、内心バカにしていたのだ。しかし自由と博愛の理念を劇化した革命劇を管理国家シンガポールでやるというのも、15年前なら考えられなかったことだ。連中の国家運営に対する自信のほどをうかがうことができるというものだ。
回り舞台をうまく使った演出は完成して動かすことができないほどだ。音楽も、照明も見事。ジャン・バルジャンの無私の生き方は、永遠の人間像として讃えられるに違いない。
日本に帰ってからつくづく思ったが、年明け以後の新聞は倫理観を全く喪失し、公職にあることを利用して不正を働き私腹を肥やし、恬として恥じない醜い汚職や不正行為を報じる記事を満載している。まったく恥ずかしいことだ。アメリカのテレビでは、そんなしょーもないニュースは流れていない。おかしい。日本人はそんな人種だったのだろうか。ほとんど繰り言に近いが「レ・ミゼラブル」を見ていると、人格の高潔さと公に奉仕する無私の精神は、同じ世界に住んでいるように思う。つまり下劣で欲得ずくでしか動かない人間が、日本に溢れ返っているように思うのだ。
役者では、EPONINEという役をやったCHRISTEENA MICHLLE RIGGSという役者が歌唱も表現力も素晴らしく、彼女が撃たれて死ぬところでは、落涙を禁じることができなかった。返す返すも見事なミュージカルである。
追記:あまりに感動したので、帰国後、岩波文庫で『レ・ミゼラブル』を読んでしまった。その後、1998年7月までに、ロンドンで2回、NYで1回、その後帝劇で2回見た。完全なレミゼフリークになってしまった。