タイムズ・スクエアの年越し.1
11時20分、長い舞台が終わり、出演者全員が「蛍の光」を歌って新年を祝う。外が寒いのは分かり切っているので、少し劇場内で時間を潰す。11時35分、しょうがないので外に出る。2月にジュリー・アンドリュースが出演するというマーキーズ劇場の前を横切って、46丁目側に出るが、交通遮断されていて、タイムズ・スクエアに出ることはできない。気温はマイナス10度以下。私にとっては、初めて体験する寒さである。風が吹くと、一気に体感気温が下がる。完全防寒の警官たちも、寒さにステップを踏んでいる。
タイムズ・スクエアを見渡すと、青い木製の枠に区切られた中に、数百人単位の人間が押し込められている。それが、おのおのカラフルな風船を手に持ち、帽子をかぶり、笛を吹き鳴らしつつ、時刻の表示が正分を指す度に、大歓声を上げて盛り上がっている。こいつらはこの寒空に3時間も待っている大馬鹿者たちなのだ。これはもう暴動である。こういう群衆がタイムズ・スクエアを十重二十重に囲んでいるのだ。寒くてしょうがないが、こんな面白い見物もない。しかし、寒いので時間が経つのが遅い。
こちらからタイムズ・スクエアに流入しようとすると警官に阻止される。それも、警官にこづき回されて、枠の中に蹴り込まれてしまうのである。これはまた日本では考えられない乱暴さだ。わたしの眼前でも10人以上の人間が、封鎖を突破しようとして警官に実力行使を受けていた。しかし突破に成功して、タイムズ・スクエア側の群衆に潜り込む者もいる。こちらのほうの攻防も面白い。訳のわからないままに我が方も盛り上がっている。人を分断してコントロールしなければ、この群衆の数である、混乱して、争乱状態になってしまうというのもよく理解できる。そうこうするうち、警察の阻止線の最前列に進出してしまった。さらに状況を見守る。
11時50分、いよいよ群衆は盛り上がりを見せ、気が狂ったかのように喚声を上げ、風船を振っている。いいかげん寒いし、殆どやけくそだ。毎正分ごとに10秒前からカウント・ダウンを続けている。11時57分。正面のビルに残業している人がいるなあと思っていたら、彼らが窓を開けて、紙吹雪をせっせとばらまき始めた。究極の暇人だ。しかしそれを見ている私は何なんだ。なるほどよくニュースで見るブロードウエーの紙吹雪というのは、こうなっているのか。こちら側のマリオットホテルの上からも、絶え間なく紙吹雪が降り続ける。シュレッダーで裁断した書類なのだそうだ。