11月6日
ぐっすり寝て疲れがとれる。それにしても外人とずっと一緒にいると疲れる。
5時に学校でDARIOと旅行の相談のために待ち合わせるが、20分たっても来ない。彼自身が「国でも待ち合わせに遅れるので有名だ」と言っていたので諦めて、ロンドンへ。
今日から、右胸に赤いバラをつけている人が増えた。あちこちの駅前で売っているようだ。これは11月11日Armisticeという行事の前触れである。なんか赤い羽根運動みたいだ。
ANDYによると、第一次世界大戦(当地では、第二次世界大戦に比較して圧倒的に死人が多かったので「GREAT WAR」と呼ばれている。 私の記憶では350万人:50万人)の終戦の調印があったのが、1918年11月11日11時11分だったのだそうだ。この日の9時には、女王がダウニング10の前で演説するらしい。また、今週の日曜日は教会ではこれにちなんだ特別な祈りが捧げられ、多くの人が参加するらしい。
造花の代金は傷痍軍人団体に献金されるらしい。また白い花をつけている連中は戦争反対団体の人間だというが、これには未だにお目にかかっていない。第一次大戦では、日本は連合国側だったのでありがたい。
バービカンセンターに直行。「学生割引」というと、5ポンドと8ポンドがあるという。迷わず8ポンドを選択。前から9列目の中央通路際という信じられないいい席だ(普通は22ポンドの席)。荷物をクロークに預けて、バービカン・シアターで上演中のロイヤル・シェークスピア・カンパニー「ヘンリー8世」のモニターを見ながら開演を待つ。
曲目はマーラーの7番。6年前に同じくバービカンセンターで、同じくマイケル・ティルソン・トーマス指揮のマーラー9番を聞いているので、先週聞いた8番と併せて、偶然当地でマーラーの後期交響曲を全部聴くことになった。
トーマスが指揮台に立つと素晴らしい拍手。ロンドンの人たちがこの若い指揮者を支持していることが肌で感じられる。演奏前の心地よい緊張感が感じられる。
長大な第1楽章は圧巻だった。トーマスは素晴らしい緊張感を維持しつつ演奏を盛り上げる。マーラーはこの交響曲をサービス精神たっぶりに、聴衆を楽しませる仕掛けをいっぱい盛り込んで作っているが、彼はマーラーの意図をよく汲み上げつつ、テンポを自在に変えて巧みに表現していく。トーマスの指揮ぶりは6年前と全く変わらない。長身痩躯を指揮台の上で踊らせながらフル・オーケストラを盛り上げていくうまさはなかなかのものだ。
ただし、長大なフォルテシモの後では、なぜか緊張感がゆるんで、聴衆の想念もどこかに浮遊してしまうように感じられるのも、前回と同様だ。
編成はホルンが8本。ハープ2台。それにマンダリンだギターだカウベルだその他鐘や太鼓がにぎやかに参加する。
とにかく素晴らしい表現力に感動した。これぞ「夜の歌」である。クリムトが夜の絵を描いたらこんな感じだろうな。牧歌的でありつつも、「黄金の夜」を描こうとマーラーは意図したに違いない。既に成功者で、絶対的な地位を確保していたマーラーが夜を表現したのだが、世紀末のウィーンの気風とも相まって、さもありなんという仕上がりだ。
ひつこいほどのモチーフの洪水を処理して一つの流れにまとめあげるには指揮者のたいへんな力量が必要だろう。しかし、1楽章から演奏の中にずっぽりとはまり込んでしまい、まったく冷静に他の演奏との比較をすることはできなかった。とにかくマーラーをたっぷり堪能することができた。滅多にない素晴らしい機会であったとしかいいようがない。これがたった1600円で楽しめるというのは、信じられないことだ。「できる限り来よう」と決意する。
駅で、ホールで見かけた日本人夫妻を発見したので、つかまえて感動を分かち合う。食品会社を退職した夫婦のようで、始めて遊びで海外に来たといっていた。22:30帰宅。
12時頃、電話でクリスティーナが病院に呼び出される。帰ってきてからまた午前4時に呼び出されたと言って怒っていた。