「新しいことをやるな」という体制
織田 聡氏
運営者 逆にですね、旧日本型社会では、「自分たちは進歩しなければならない」と思い込んでいた期間の方がまれだったのではないでしょうか。
織田 徳川時代なんてまさに、進歩は悪であるとか、進歩を考えない方がいいという時代だったですよね。徳川幕藩体制は、進歩を殺すことによって徳川家を安泰にさせる体制であったわけで。
運営者 関係性を固定するというのが基本だったですよね。その基礎に据えたのが朱子学なんです。
織田 「親の言うことを聞けと」いうのは、「新しいことをやるな」という意味ですからね。
昔は日本も狩猟社会だったと思うんです。それがあるときに農耕社会になったわけで、そのきっかけはなんだか想像してみると、誰かが親の言うことを聞かずに種まきを始めたんだと思うんです。
運営者 おもしろい。
織田 オヤジさんが、「狩りにいかないと家族が食えないじゃないか」と息子に言ったときに、「いやオレは種をまいて、来年の秋まで待つんだ」という息子がいたから農耕社会が始まったんですよ。
安定した社会の象徴である農耕社会ですら、誰か最初に手掛けたパイオニアがいたんですよ。
運営者 事実は全く違うと思いますけれど、状況としてはそういうことですよね。おもしろい。
歴史は繰り返しますよ。道東地区にあるパイロットファーム、あの辺の土木関係の利権が鈴木ムネヲを生んだと考えられているわけですが、なぜそこに人がいるのかというと、あそこに開拓者が入ったからですよ。開拓者の子孫が、「道を作れ」と言っているわけですから。開拓者精神を持っている人間は棄農して本州に戻っているんです(笑)。
だから進歩というのは、人間の弱さとの戦いだと思うんです。
それにしても、なぜ旧日本的な価値にみんなが引きずられて、いまだにそこから脱出できないのか。
織田 進歩には2種類あるのでは。他人に追いつく進歩と、模範がないけれど進んでいく進歩の2つに分かれるんだと思うんです。日本の進歩というのは昔から前者だけであった。後者の、模範がないけれど進んでいく進歩というのは、日本人には不向きなのかもしれません。
運営者 だけどアメリカはもっと進んでいて、その模範のない進歩をやるときに、どのように方向性を定め、リーダーが決定を行い人々を率いていくか、資源を有効に活用するかという洗練された方法を持っているわけでしょう。
織田 リーダーシップにも2種類あって、すでに手本となるものがあってそれを目指すためのリーダーシップと、新しい価値をつくろうというリーダーシップがあるんです。そして後者のリーダーシップは日本では少ないと思いますね。