運営者 それで、これは最も重要な問題なのですが、日本の首都である東京は、周辺人口3000万人くらいの世界一の大都市なのですが、この首都圏の危険度についてどう評価すべきか。その認識について伺いたい。
木下 僕は、最初からそこには悩んでいました。事故直後は、東京まで原発事故の影響が直接目に見える形で押し寄せる可能性も考えていましたから。原子炉が大爆発して放射性物質の大量拡散によって東京がものすごい線量になるかもしれないという想定を東京で立てていたんです。
よく僕のことをまちがっていると批判する人がいますが、その意味では、結果論としてはそうはなってないわけだから、僕は確かにまちがえていたんです。
運営者 ワーストシナリオを立てるというのは、別に悪いことではないと思いますけどね。
木下 でも結果としてはそうならなかったわけで、そうすると「ひょっとしたら一定程度気をつけることによって東京にいても大丈夫なのかもしれない」と、しばらくの間は思い続けていました。
運営者 私もそう思ってたんですよ、過去形ですけど。
木下 それで僕は、「もし東京にたいして汚染がないのであれば、筆を折って蟄居しよう」と思っていました。
運営者 へぇー
木下 ところが2011年の5月ごろ、近畿大学の先生がやった土壌調査の結果で皇居のあたりから2000ベクレル/kg検出してたんです。
関東地方の住人の鼻血や身体不調など被曝症状と似通った症状の状況は、講演会に来た人から直接聞いて一生懸命確認していたし、症状を話してる人が嘘をついていないこともはっきり分かっていたのですが、その一方で汚染の実態もわかってきた。
この頃の僕は、「もっと強い放射線を浴びなければ健康被害は起きないのではないのか」と勘違いしてたんです。
ところが、健康被害を訴えている人たちが嘘をついていないのだとすればどう考えるべきなのか。「実は、相当な高線量を浴びなければ健康被害が起きないという考え方はまちがっているんだ」という結論にたどり着いたわけです。
運営者 なるほど。低線量被曝でも放射線健康被害は起きるということですね。
木下 いや悪いですけど、「低線量被曝」というのは体制側に絡めとられかねない、まちがった表現だと思います。外部被曝であれば、多少線量が高かったとしてもそれで被ばく影響は起きないですよ。
年間許容被曝量は20ミリシーベルトか100ミリシーベルトかという議論を一生懸命してるじゃないですか。僕はあの議論に乗っかることも、とても危険だと思ってるんです。
つまり、2~3ミリシーベルトであったとしても、放射性物質を体内に取り込んで起きた内部被曝の影響というのは、外部線量20ミリシーベルトの比では無いのではないかということです。
運営者 なるほど。内部被曝と被曝の健康に対する影響とはかなり違うと。
木下 JCOの事故のときは外部被曝だったのですが、どんなに微量であっても放射性物質が体内に取り込まれた場合は、人体に与える影響というのは想像もつかないものがあるのではないか、なぜならそういう被曝の実験は軍事用のもの以外は行われていないからです。
そしておそらく、放射性物質をエアゾールみたいな形で吸引してしまった場合は尋常でない影響があると思います。あと放射性物質が直接付着して、体内に取りこまれるのも危ないと思います。
つまり放射性物質が体内に取り込まれたケースと、外部被曝とでは、健康に与える影響は全く様相を異にすると考えられると思うんです。
僕はこれを前提に、全て考えています。
運営者 問題は内部被曝かどうかであって、「低線量だから」で線引きするのは意味がないということですね。
木下 学者が、内部被曝についての定数を主張してますが、あれも嘘だと思います。だって、人体実験できないんですから。
それでね、東京の危険性の話に戻すと、東京に放射性物質がどのくらいあるかが問題なわけですが、東京というところは311の前は放射性物質がほとんどない場所だったわけです。
ところがそれが、僕たちのグループが東京23区で数十カ所程度で土壌調査をやった結果、平均して800ベクレル/kg検出されています。経産省前の植え込みの土を測ったら1万ベクレル/kgを超えていたので、突出して高かったその数値は除外しています。
運営者 (笑) しかも東京は、その800ベクレル/kgで、なおかつ外部被曝だけでは無い環境になっているわけですよね。
木下 そうです。その環境を考えたときに、とても東京に住むのは厳しいと思います。