運営者 それで、木下さんがこれまでブログに書いてきたことの中で、僕が「いちばん鋭いな」と思ったことがあるんですけど、それは、なぜ東京にいる人たちが避難しようとしないのか、行動しようとしないのか、その理由について考察した部分です。引用すると、
「ただ、ひとつ類推しているのは、自分自身の人生に、そのひとそのものが、喜びを本質的に見出しておらず、そうした関係性の中に生きることそのものしか、自分の可能性を感じられないということだと思います」
この洞察はかなり鋭いと思うんですね。つまり大抵の日本人は、「関係性のみによって生きる自分自身」を守るために、自己規制してしまって、本当のことを見ようとせず、完全に周囲に同調しているということです。
東京から避難できるのは、よく言えば「自己を確立した人間」、彼らからすれば「傲慢」な人間だということです。だからみんな、われわれのことを悪く言うんですよ。
あと、危険厨のほうが多数派になったら、みんなそっちになびきますよ。多数につくことが重要ですから。
彼らにとっては、命よりも、国が滅びることよりも、今ある自分の人間関係を貫くことの方が大切なんです。
木下 避難することができるのは、少なくとも「自己を確立したい」と思っている人間ですよね。まだ自己が確立できていない人のケースも多いし、他のことに依存している人の場合も多いんです。
だけどその人は、東京の中にある一定の安定した人間関係の中で事を転がしていくということしか知らない人とは違って、人生の中での関係性の変転を多かれ少なかれ経験していたり、少なくとも関係性が変化するだろうということを理解していて、その関係性が崩れたとしても新しい関係性を築くことができると知っている、あるいはそうした経験があった人です。
運営者 そういう人であれば、関係性が変化したしても対処できる。
木下 対処できるかどうかはまた別の問題ですが……
運営者 少なくとも対処しようと思っている。
木下 そういう人です。
運営者 そうじゃない人は、「周りの人の話に合わせておけばいいんだ」という姿勢で、そういう判断しかできない。だから組織全体がどちらに行けばいいのかわからなくなっているときには、その本人も思考停止に陥ってしまうんです。
木下 今起きているのは、そういう現象だと思いますよ。
運営者 だってね、放射能による健康被害が東京で起きるかどうかという結論は、3年たってもまだ出てないわけじゃないですか。
兆候がたくさんあって、今日の木下さんの話というのは、「これはどう見てもやばいよ」という話なんだけれど……
だっげらいよん4コマ漫画ブログ しばざきとしえ作木下 それでも確定はしていないんです。
つまり不確定な状況なんです。そして世の中というのは不確定なものなんです。
発災直後の不確定な状況において、将来これがどうなるかということを予測したときに、僕の考えでは東京に住んでいる住人の3割くらいのはおそらく「これはだめだ。ここには住めない」と思い、7割の住民は「まぁいいかなと」。
そういう分布であれば、東京は健全な社会だったと思うんです。
つまり3000万人の関東圏の人間のうちの1000万人は関東圏を脱出すると…
運営者 しかし実際はそうはならなかった。爆発した福島第一原発の、東京から220キロという立地は、非常に微妙な立地だったんです。また東京にある国富は、打ち捨てるにはあまりにも大きかった。
木下 それでおそらく、さらに3分の1、全体の1割の人が関東圏を脱出するくらいになるんじゃないかと思ったのですが……
運営者 それは私の予想と全く同じです。
木下 現実は多分、避難したのは10万人くらいですよ。
■木下黄太氏インタビュー
今そこにある「放射能危機」の本質 2014年4月
「放射能防御」と脱原発を巡る、もろもろの事情 2014年7月
被曝回避、放射能防御の現状と展望 2014年11月