引き抜きをかけたら社長が怒鳴り込んできた
小峰 尚
運営者 その時の、相手の反応って、どんなもんですかね、最近は。
小峰 僕は最近しかやってないからわかんないですけど(笑)。まあ十人中、七、八人ぐらいの確率で会いますよ。
運営者 多分、昔に比べると、その確率は。
小峰 随分が上がってるんでしょう。楽になっているんじゃないですか。業種にもよりますけどね。例えば商社だとかそういうところだと、人に会うのは何でもないと。でも技術者なんかだと、「どこで私の名前を聞いたんだ。ひょっとして人事が辞めさせるために聞いたんじゃないか」とかね。技術者はやっぱりまだ保守的な人が多いですよね。
運営者 技術者の方がお堅いですか。
小峰 お堅いです。その会社自体のセキュリティーが厳しいですね。「どういうお知り合いですか」なんて聞かれたりして。
運営者 でも、技術者の人というは、技術志向とか、あるいは知識に対する欲求があるけど、権力志向がないというのがいいところ。
もう一つは、学会などに頻繁に出掛けて行ったり、あるいは他の提携関係にある会社に出向して、技術指導なんかするということもあったりして、ある程度、外との壁も低かったりすると。だから小峰さんには申し訳ないですが、東大の法学部ガチガチの人よりは、技術者のほうが外部との交流を柔軟にやるような、一応の素質があるんじゃないかというふうなことを聞いたんですけど。
小峰 確かに。ただ、実はそういう素地があっても、例えば会社のシーンとした研究室の中で話しづらいから、うちみたいな会社から電話がきた時には、かえって冷たいことを言うってこともあるのかもしれない。
運営者 それ重要じゃないですか。「今、いいですか」って、基本じゃないんですか。
小峰 勿論。でも、「いいですか」って訊いても、話しづらそうにするわけですよね。その辺は一般論じゃなんとも言えないけど、僕の印象だとやっぱり技術者さんの方が、……学会なんかに出て行って、懇親会かなんかで名刺交換をすると、いくらでも話をしてくれるんですよ。
「なんでおたくがこんなところにいるんですか」「いや、コンサルタントですから」とかって言って。人材コンサルタントから「人材」を取っちゃうわけですよ。すると何だろうと思って、名刺交換をして、話をしてくれます。
技術者の場合は、そういう事までしないと、なかなかアクセス出来ない。それはまあ、この半年ぐらいでの僕の経験です。特にインターネットがらみの、プログラムを組むような人というのは、結構、うちのテクノロジーセクターのリクルーターでも苦労をしてますよね。
運営者 そうですか。やっぱりそういう腕利きのプログラマーというのは、虎の子ですもん。「うちにはこういう技術者がいて」というのは。もう殆んどその会社の競争力の源泉になってますもんね。
小峰 そうです。聞いた話ですが、ある雑誌に「うちのエース」っていう記事が出てたわけですよ。顔と名前が出てるから、その人にソーシングレターというのを出す。「自分はこういう者で、お名前を聞いたんで、一度会いたい」と。その手紙を会社に出しちゃったら,そこの社長が私信を全部開けてチェックして……。
運営者 すごい会社ですね、それはまた。
小峰 それで怒鳴り込みの電話が掛かってきて。気持ちはわかりますが。
運営者 そこですよ。だって、会社は社員を所有しているのかと。社員には自由意志はないのか。機会を剥奪していいのか。引き抜かれて困るのなら、引き抜かれないだけの処遇を与えろと、私は思いますがね。それは小峰さんが答えられる立場じゃないのかもしれないですけど。
小峰 それはだから建前上は、そんなことはないと言いながら、延々と一時間近く嫌味を言うわけですよ。「私はべつに、職業の選択の自由を奪う気はないんだけれども」ってね(笑)。