自分の仕事が説明できなければお話にならない
小峰 尚
運営者 それは置いておいて、何とか本人にとにかく接触したとしましょう。その時に相手の何を見るんですか、小峰さんは。
小峰 やはり、日本の企業から外資系に初めて行くような場合には、外資系企業でうまくやっていける人かどうか。それはどういう人かと言うと、前述のレピュテーションが確立されてるということにも関係するんだけども、その人の仕事の仕方がかなりきちっと整理されてる人かどうか。
運営者 整理といいますと。
小峰 自分の仕事ぶりについて。あるいは自分の実績についてですよ。
運営者 そんなのは当たり前じゃないんですか。
小峰 それは、そういう人とそうじゃない人がいますよね。命じられたことだけを毎日こなしているのが精一杯で。「あなたは何が出来るんですか」あるいは「あなたの仕事人生の中で一番苦労してやったことについて、何か説明してください」と訊かれたときに、すぐ、「実はこういうことがありました」って言えるか、「うーん」って、唸るかの差です。
運営者 普通、言えるでしょう。
小峰 いやー、それはだから、そう言える人と言えない人がいるわけですよ。
運営者 言えなきゃ"出来ない人"ですよ、絶対。仕事の経験が身になっていたらば、絶対忘れないんだそうですよ。優秀な人ほど、仕事をやったときのことを忘れずに人に話すことができるんだそうです。
小峰 でも、例えば「人事の人間で海外にいたことがある。だから英語もできるし」というので会ってみてたら、「アメリカにいたといっても、アメリカ人の採用は、自分は実際にやってなかった。ただ見てただけだ」という人だっているわけです。
運営者 どうにもお話にならないじゃないですか。
小峰 話にならないんだけども、僕らとのインタビューでは、「俺はアメリカにいて、採用だってバンバンやったんだよ」とおっしゃるわけです。
運営者 そんなとこで嘘ついたってしょうがないのに。嘘じゃないにしても、自分がやったことをちゃんと説明できないんじゃ、そんなことで世の中通用するはずがないでしょう、だって。
小峰 その部分が甘い人が多いんですよ。おっとり刀で面接に臨んだり、僕らにも会いに来ちゃう。だからさっき言った問題意識がまだなくて、自分が何をしていくべきかわからない。「こういうふうになりたいんだ」という強い意識がないから、僕らに人生相談を求めちゃうんですよ。
運営者 どうしたらいいんでしょうね。
小峰 転職する時の心構えとして、「自分の人生の残り10年20年で何をして生きていきたいのか」というのを自分なりにきちっと考えていかないと。転職というのは実際、まずそこからスタートするんです。「自分は結構、何でも出来る」と思っている人って多いじゃないですか。「私は何でも、テーマを与えられたら、乗り越えて解決する自信があります」って。
だけど「あなたは何をやりたいんですか」って訊かれたら、その会社のポジションと、自分のそういう思いなどがマッチングするのか。クォリファイされてるのか。そういうのはうまく説明できなくちゃいけないんですよね。
運営者 それは当然のことでしょうね。
小峰 その当然のことが出来てない人が少なくない。そういう場数を何回か踏んでいくうちに、転職に成功するのかもしれませんが。
運営者 それでも僕、それ聞いて思うのは、そんなしょうもない交渉の仕方をしてたんじゃ、自分の会社のモノを売れやしませんよ。おかしいですよね。
小峰 だからやっぱり、いい大学を出た大企業のサラリーマンでも、飼い馴らされちゃって、自分の頭で考えなくても済んできている、そういうツケっていうのはすごく溜まっていると思うんですよ、垢みたいなものが。
運営者 「逆らわなくて、何となく従順に、残業にも付き合い、運動会にも出ていけば、なんとかいけるだろう」と考えている人だということですよね。
小峰 ええ。だから僕なんかもそうかも知れない。もう20年も一つの会社にいたっていうこと自体が、ある意味じゃそうなのかも。
運営者 そこは僕は判断できないんですけどね。
小峰 やっぱり10年ぐらいで「志」もって飛び出す人もいるだろうし。それはジェネレーションの問題かもしれないですね。10年前に飛び出て行った同僚を見ていると、「ずいぶん思い切ったことをするな」というような感じでみていたけど、最近では「まあ、やっぱり課長になるのが2、3年遅れりゃあ、そういう気持ちも当然わかるな」と。その程度の問題意識ですよ。
運営者 志も何もないですな。職業意識も。