発信される「情報」には6つの階層がある
運営者 まあそうでしょうね。
三神 仮にワークフローがあったとしても、不幸なことに、マスメディアは持っている情報発信の場や力を、基本的には自己宣伝に投じてはいけないですし、まさか業界内で互いに取材しあって提灯報道をするわけにもいかないですから、自らのブランディングが非常にやりづらい。
このまま放置されていると、急なアポイントメントで「レクチャーしてください」と来る記者陣に付き合う寛容な人がどんどん減ってしまうのではないか、本当に先端の情報を持つ現場の人たちはマスコミ対応をしてくれなくなるのではないかと。
余談ですが実際、プロフェッショナル・ファームの中にはマスコミ対応用の、広報とも代表権を持つポストとも異なるスペシャリスト職を設けるケースもあります。平たく言うと、露出を専門に担う人ですね。
運営者 ローファームに行くと、そういう人が対応に出てくるケースはありますね。
三神さんがおっしゃるように、「メディアが仕事のワークフローを整備すれば多少よくなるのではないのか」という問題意識はよくわかります。ではそのワークフローとはどのような考え方に基づくべきなのでしょうか。
三神 基本的には、事業会社が会計情報に関して行っている内部統制整備の発想と、諸外国のインテリジェンス組織がやっている情報信頼性評価と信頼性担保のワークフローが参考になるのではないかと考えています。
この二つの領域、私はまだ内部統制のほうをほんの基礎的なところだけカバーしているに過ぎないので非常にお恥ずかしいんですが。ただ、注意しなくてはならないのは、マスメディアの情報発信は、標準化された言葉や様式で市場に公開される会計情報とも異なりますし、政府の特定の人にだけ提出すればいい非公開の文書とも異なる、という点です。
運営者 特殊性は認められますね。
三神 ここで、先にお話したアメリカの大学図書館の評価基準から見えてきた共通項が参考になるかなと考えているんですね。「情報」とひとくちに言っても、六つの階層で分解していく考え方。
「流通物として信頼できるのか」
「出版物として信頼できるのか」
「編集物として信頼できるのか」
「文書として信頼できるのか」
「コンテンツ(言論)として信頼できるのか」
「その言論を構成している情報の出所は信頼できるのか」
この階層でそれぞれ、責任の開示、内容の客観性と正確性をどう担保するか整理するのはひとつだと思います。
情報の受け手は、こうした六つの階層でフィルターを潜り抜けてもまだ、今度はその情報を意思決定に利用した場合のリスクを検討する「有用性」評価に進むんですが、これも三段階に分かれまして、
物的に情報を「受信」する時点での評価
受信した中から「選別」する時点での評価
意思決定や論考の材料として「選択」する時点での評価項目
があります。
ジャーナリストは情報発信者ではありますが、情報を入手することから仕事が始まります。ですからこの品質が高いことが専門性でもありますから、経験知による直感以外に、こうした受信・選別・選択のワークフローもまた訓練用に整備されてもよいかなと。
あくまで、参考にするのは項目立ての発想だけなんですが。大学が作った項目はあくまで大学なので、「論文に引用できるかどうか」に少し偏っています。これとは違う判断軸をメディアが定義していかなければならないので骨の折れる作業になるでしょうが。