記者はニュースに関係してはならない.2
三神 取材先どうしのブローキングをやり出すと、これはもっといけませんね。仲介フィーを取るのは論外ですし、取らなかったとしても、ニュースバリューが上がるような取引関係を自ら作り上げて自ら報じて、という構造になり、利益相反以前の問題だと思います。
例えば、これはプロフェッショナル・メディアではない、いわゆる「情報誌」といわれる媒体にみられるビジネスモデルですが、人材紹介事業を持つ企業が転職情報誌を発行している場合は、編集者が転職を斡旋すると紹介事業部から紹介料の一部が給与に加算して支払われる例があります。つまり記事ページで取り上げた人物を、紹介事業に回して編集者と事業部が稼ぐという仕組です。この仕組の中では、記事ページは実質的に取材と称した営業ツールにほかなりません。数年前の話で現在も続いているかは不明ですが、ケースとしては人材紹介業以外でも今後もありえると思います。独立した客観事実のページもごくわずかですが作ってあるために読者にはわかりづらい構図になっていますが、人材市場での値をつり上げる記述が紛れ込む。
運営者 それは知りませんでした! とんでもない話ですねえ。そんなものを読まされている読者はいい面の皮です。編集者は良心が痛まないのかな?
そいうえば、不動産系の情報誌で、「編集部がお奨めする物件」なんて大特集をやってたことがあったけど、あれも危なそうだな。
三神 そもそも一般事業会社が発行する情報誌と中立媒体であるプロフェッショナル・メディアは全く異なるのですが、読者の中にも編集者の中にも残念ながらこの区別がついていない例もあります。
さらに厄介なことに、中立媒体であったニュース雑誌が事業会社に買収される例もありますし、こうなると書き手は、出版元単位で自分の発信フィールドを選択すべきか、媒体単位か、ページ単位か、書き手としての情報信頼性評価も非常に頭を悩ませることになる。
運営者 日本版「ニューズウィーク」を出していたTBSブリタニカは阪急電鉄に買収されちゃいましたね。
三神 基本的には、自身の言論の独立性が職業倫理レベルで確保されていればよいと言えるでしょうが、ページ単位でどういう仕組になっているかは把握しておくのが安全だと思います。客観事実のページで文責が完全に分離されて、企画段階から取材先選定まで一任されているケース以外は接点を持つべきではないでしょうね。どれかが欠けると、意図しなくとも利益相反構造に巻き込まれる危険があるからです。情報誌でもプロフェッショナル・メディアでも雑誌に見えるパッケージを作っている人々は「編集者」「編集部」という名称で混在しているのが現状ですから。
すみません、プロフェッショナル・メディアの中の事例に戻りましょうか。
運営者 あるテレビ局の特集で4年前に「奇跡の詩人」というものがあったんです。これは重度の脳障害児が文字盤を指さして、それを親が見て書き取っていくと、これが見事な詩になっているという事実を紹介した番組で非常に反響がありました。その真偽のほどは別にして問題は、その子供は全国の地方都市を回る公演をやっているのですが、彼の支援ボランティアにテレビ局のディレクターの奥さんが参加していた疑惑があったというケースがあります。
三神 詳しい事実関係を私は知らないので何ともいえませんが、印象レベルで粗いお答えをしますと、完全な無報酬で、放送の「後」に共感して参加し、その後一切その取材先を報じないのであれば問題はないと思います。でも、仮に取材前からの参加で、本人でなくとも、無報酬であっても、三親等内の家族が実質的に支援金を集める要員として従業員的に機能していたのであれば、放送は支援金の増加に貢献する営業を代行した形になりえますから問題があると思います。
運営者 「三親等」というのはどこから出てきたんですか?
三神 身内のどのレベルのどの行為までを独立性・中立性の考慮に入れるべきか、ジャーナリストの場合の確定的な目安を私も調べ切れていないんですが、情報の信頼性を担保する責務を負っていて、かつ、影響力が大きい、という、メディアと同じ要素をもつので参考になるかなと考えているのは、ニューヨーク証券取引所の役員に求められる独立性基準“Director Independence Rules”でしょうか。
コーポレート・ガバナンスを担うプロのための基準と、メディア・ガバナンスを担うジャーナリスト職の基準は別の設計をする話だとは思いますが、三親等内の家族の利害関係は事前確認が必要、という点に関しては標準的な線ではないか、という印象を私は持っています。
運営者 それ、納得性はあるけど、「恋人関係」だとカバーできないですね。