市民社会の成熟化は企業のあり方を変える
運営者 確かに、岩崎弥太郎は海援隊の精神も汲んでいるんですよね。それはまさに国士的な発想であって。それが受け継がれた風土の中でもなお番頭は徐々に官僚化していって……。
三ツ谷 官僚機構を動かすのはいや応なく番頭ですからね。番頭はオーナーを喜ばせるために会社の規模を大きくしようとしますし、それよりも自分がよって立つところの権力基盤である従業員の共同体のためにパイを拡大してポストをつくってやるということに心を砕くわけです。
運営者 としますと、そこですでにミッションが、「世の中のためになる財やサービスを作る」というところから乖離してきますね。
三ツ谷 実は意外にこの時点で乖離していなくて、経済が発展してくるにつれて、徐々に富を蓄積させた大衆が消費者となってきますし、市場を広げるということはそれまで貧乏だった人を豊かにして、参加させる必要が出てきますから、結局だれのために仕事をしているかというと、それは顧客のためということになっていったんです。
運営者 しかしそれは、さらに成熟した社会では成り立たなくなってしまうのではないかと思うのですが。
三ツ谷 ええ、確かに市場が成熟しきってしまった場合にこの図式が成り立たなくなるというのは、アメリカで70年代に経済的な停滞が起こって出てきた現象だと思います。で、それを乗り越えるために必要だったのが、『実践IR』でも触れたのですが結局株式市場に大衆全員が参加する仕組みだったと思います。それによって、さらに新しい消費を可能とする回路が生まれたのだと思います。
運営者 そこで以前と違うことは何かというと、より厳しい企業への監視を株式市場が始めるということになるでしょう。
三ツ谷 株式市場をどう考えるかというのは非常に難しい話なのですが、かりに成熟した市民社会を前提としたところに市場があるとします。で、例えば環境に対して負荷を与えている企業と、環境に対してやさしい企業の製品があった場合、やはり環境に対してやさしい企業の商品の方がやや割高になってしまうと思います。その時に本当に成熟した市民社会の消費者がどちらを選ぶかというと、おそらくは環境に優しい会社の製品を選ぶでしょう。
運営者 グリーン・コンシューマーという考え方ですね。
三ツ谷 成熟した市民社会ではそうした動きがいろんな分野に広がることになるはずです。そうしますと利益という観点からみても、環境に優しい会社の方がそうでない企業をしのぐことになるわけです。当然株式市場も環境に優しい会社の方を高く評価することになるでしょう。そういう回路が、もし仮に働いてくれば、大衆でもある自分と、生産者でもある自分との乖離が埋まってくることになるでしょうね。
運営者 エコファンドというのはそれを考えに入れているんだと思いますが。
三ツ谷 エコファンドの場合は、厳密にいうと2つの考え方がありまして、「環境に優しいカイシャを買う」という市民寄りの立場のエコファンドと、「いずれ環境に対する規制が強まるだろうから、今環境対策を打っている企業は将来的にはより低いコストで規制に適応できるだろうから、今環境に配慮している会社の株を買う方が収益を上げてくれるだろう」という考え方です。数的には後者の方が多いでしょう。結果として出てくることは同じなのですが、後者の方がやや成熟した考え方かもしれませんね。
運営者 へえー、知りませんでした。それと長期的な投資を念頭に置いているという特徴がありますよね。