三ツ谷誠氏はIR(インベスター・リレーションズ)の専門家です。資本主義のそもそもの成り立ちや性向から考えて、現代の資本主義はどこへ向かおうとしているのか。市場の本質とは何なのか。その中にあって、企業は誰が統治するのが本来の姿か、またこれからの変化を乗り切るために個人個人に求められているものとは何か、深い考察を試みていただきました。企業が決算を乗り切るための株価対策を政府が検討していますが、彼の提示するような市場の本質を弁えた対策でなければ、失敗して税金をまた無駄に使うことに終わるでしょう。
「自分のお金はみんなのもの」という理解
東京三菱証券IR室 三ツ谷誠氏
運営者 非常に重要なことは、市場はわれわれの社会が持っている一つの資産であると認識し、市場を理解し、市場をちゃんと維持し、育てつつ、市場のあり方自体も監視していくことだと思います。それができなければわれわれは大きな損をすることになるんでしょうね。
三ツ谷 まったくその通りだと思います。そして、一人ひとりが持っているお金も本当はみんなのものであるという自覚が必要ですよね。
運営者 そうそう、お金というのは自分が所有していても自分のものではないんです。これが理解できる人を増やさないと。
この前おかしな話を聞いたんですよ。安田信託銀行の危機説が流れたときに、私の知り合いが本店に見物に行ったら、自分の部下の女子社員が行列に並んでいたと言うんです。で、上司に向かって「とんでもない銀行だわよ。私が預けたお金を人に貸すなんて」と憤懣をぶちまけたそうな。上司の方は返す言葉を持たなかったそうです。
お金は資本として一括りにして、世の中で一番必要なところに行って価値を創る手助けをしなければまったく意味を持たないものなのですが……。
三ツ谷 結局そういう考え方を持って自分のお金の使い道をしっかり監視しないと、自分の老後をまともに暮らすこともできなくなってしまうでしょう。
資本は一番最初にインプットされた性質に従って、常に増殖していくという法則を理解して行動しないと、少なくとも資本主義社会は機能するものではないのです。
今のところの日本は「結局社会主義国家だ」と言われてしまえば全くそのとおりだと言わざるを得ないでしょう。みんな全体の中に埋没して安心して暮らしている。しかしそれは実は「まったくナンセンスだ」と指摘しなければならない状況にあるのでしょうね。
『実践IR』
われわれがよって立つ「資本主義」の根本原理(2000.1.23)
カイシャは誰のものか(2000.1.24)
市民社会の成熟化は企業のあり方を変える(2000.1.25)
アングロサクソン型資本主義は世界を覆い尽くすだろう(2000.1.26)
「イギリス経験論」vs「大陸合理論」(2000.1.29)
だから「個人の自由」に大きな価値がある(2000.1.30)
今はじめて要請される「近代人の誕生」(2000.1.31)
いかにして「資本主義」を超克するか(2000.2.1)
全体主義の火種が絶えることはない(2000.2.2)
出でよ、資本主義的人間(2000.2.5)
社会主義国ニッポンの一側面(2000.2.7)
変革を避けて逃げ切る時間があるか(2000.2.8)
個人が動けば、社会も動く(2000.2.9)
思想運動としてのIR(2000.2.13)
「自分のお金はみんなのもの」という理解(2000.2.14)