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市場、個人およびカイシャの一般理論 

三ツ谷 誠氏

だから「個人の自由」に大きな価値がある




三ツ谷 やっぱりそういうところがあって、市場が絶対だとは思いませんが、市場を通したやり方のほうが私はいいなと思っています。それは選挙制度も全く同じで、経済においては資本市場であり、こういった仕組みの方が、一人ひとりが自分の自由を追求するためにはいいやり方なのではないでしょうか。

運営者 そうですね、そう考えると、個人個人が自分の自由を追求した方がより良い方向に行けるのかどうかが問題となります。

三ツ谷 経験論のいいところは、一人ひとりが自分の持っている天分を伸ばして、彼に託されたミッションを最大限果たす者が、市場的な機構によって最終的に統治されるという世の中の方が、一人ひとりが伸びることによって全員に返ってくる成果も大きいよね、というところが本当に重要なことだと思うんです。宗教でいうならば「それによって神の王国というのはあり得るのではないだろうか」という議論になると思うんです。
 ところが、一人が設計した機構というのは、神ならぬ身なわけですから無理だと思うんです。西洋近代が世界的に普遍化していくという意味では、「地域にあった資本主義がありうべし」ということではなくて、市場がすべてを覆い尽くして行って、市場がすべてを決めていくような形にならないと、やっぱりそれは理念が完結したことにはならないと思います。
 歴史の法則が円環ではなくて、かりに単線でそちらに向かって動いているとすれば、「日本型の資本主義とは何か」といった議論というのは、実は間違った考え方であると言えるのではないでしょうか。極端に言うとアングロサクソン、とりわけアメリカ型の資本主義に限りなく近づいていくことによって人類が一つになっていくという動き方をしていくのではないのかなと思うんです。
 それが善か悪かというのはまったく別の議論です。

運営者 非常によくわかります。まったく同感です。
 実は要素としては当然ながら、日本型の資本主義制度もアングロサクソンの制度と全く同じものを持っているんです。ですからその要素の役割を拡大解釈していけば、共通点はあるので、「全然違うことではないだろう」というふうな主張もありうるわけです。現にそのような形の主張をしている本を店頭で見かけます。だけどそれは単なる拡大解釈であって、本当のところは、資本主義の本旨にアジア的な歪曲を加えているだけのように私には見受けられます。

三ツ谷 生産効率の議論をするならば、実は日本型の資本主義の方が効率がいいかもしれません。ただ「資本主義が究極に目指すものが個人の限りない解放であり自由であるということであって、資本主義はその目的に到達するための運動形態に過ぎない」と考えるならば、日本的な集団主義をやった時点でアウトになってしまいます。
 確かにそっちの方が生産効率が良いかもしれません。「じゃあ、それによってだれが幸せになるの?」という議論を立てたら、誰も幸せにならないでしょう。

運営者 株主も幸せにならない。社員も幸せにならない。

三ツ谷 でも、日本型資本主義の場合は、ある種の宗教の教祖になりさえすれば、教祖だけは幸せになることができるでしょう。ただ株式会社という組織が一人の意思決定者を生むためのシステムであるなならば、それは最後のただ一人のためのシステムであって、そのための競争に敗れたすべての人間が、結局その宗教で幸せになることはできないというわけでして、そういう事例はまさにそのへんに一杯転がっていると思いますよ。

運営者 そう。宗教って、僕は大嫌いなのですが、考えてみると何が嫌かというと、トップにいる人間が一番得をするネズミ講方式であるからなんですね。

三ツ谷 仮に日本の大企業にいて「カイシャ」という宗教に染まってしまえば、「最後の椅子にたどり着くことが幸せだ」という目的を意識するわけですから、その一人以外は幸せでない人生て終わってしまうことになるでしょう。これは本当ではないと思うんです。
 それが理想だと言っているわけではありませんが、アメリカ型の資本主義であれば、そこから透けてみえる理念というのが、「みんなこの機構で幸せになろうよ」というところにある。少なくともそれを廃してはいないですよ。つまり「自分が最大限自由になれる」ということが目標なのであって、そこに向かってみんな頑張ろう。で、会社は自分がその目的に向かっていくための手段であって目的ではない。より幸せになれて、より付加価値を得ることができるはずです。そこに大きな考え方の違いがあるのではないでしょうか。

運営者 だからこそ個人の自由には価値があるのだと思います。

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