ユーザーに幸せを共有してもらいたいから利益を出す
瀬口 企業人の中でも、例えばソニーの井深さんとか、松下幸之助さんとか、本田宗一郎さんといった人たちは「自分たちが作る製品でもって日本の人たちを豊かにしたい」という思いがあって、自分の作る製品を通して世の中に貢献していたと思うんです。渋沢栄一の「論語とそろばん」だってそうだと思いますよ。そういう経済人たちが日本の発展を支えてきたと思うし、他の国だってそうだと思いますよ。
そういうフィロソフィーを持っている企業人が社会を支えているんだと思います。もちろん企業ですから利益が出なければならないと思いますが、その利益を出す目的というのは、自社の商品やサービスのユーザーに幸せを共有してもらいたいという想いだと思うんです。それが企業のリーダが持っているパブリックマインドですよね。
運営者 商品を通して世の中に効用を提供するわけですよね。
瀬口 ROEやROAを高めることを第一の目的にしている会社で、大きく伸びる会社というのは少ないと思いますよ。
運営者 ROEやROAというのは後からついてくる、ということですね。
瀬口 長期的にみんなを幸せにしたいという目的がなければ、短期的にROEを追いかけたとしても、発展し続けることはできないでしょう。
運営者 そういう思いがなければアイディアも出て来ないでしょうし、そのアイデアを実現するための開発もやりおおせないでしょうし、安くその製品を供給するためのシステムをつくることも難しいでしょうね。できないと思いますよ。
瀬口 だから、活躍しているリーダーたちはみんなパブリックマインドを持っているのだと思います。ただそのパブリックマインドを、その下のサブリーダーとか、中間管理職とか、社員の人たちが全員同じレベルで共有しているかというと、それはむつかしいでしょうね。
「この商品を作って売ることによって世界を幸せにするのだ」という高邁な理想よりは、「この会社で働いて、いい社宅に住んで、いい車に乗って、幸せな家庭を」というふうに小市民的な幸せを求める人の方が、割合としては多いはずです。