この日のオペラは《ナブッコ》。《アイーダ》に次ぐヴェローナの定番演目で、私がここで聴くのも7回目となります。
そのうちの4回がデ・ボジオ演出、オリヴェーリ装置による舞台で、石造りの広い会場をうまく生かしてエルサレムとバビロニアを舞台にした旧約聖書の物語の雰囲気を作りあげており、舞台転換もスムーズな定番プロダクションといえます。
1991年に、カップッチッリ、ディミトローヴァ、ネステレンコという夢のようなキャストで最初に《ナブッコ》を聴いた時も同じプロダクションでした。
指揮:ユリアン・コヴァチェフ
演出:ジャンフランコ・デ・ボジオ
装置:リナルド・オリヴェーリ
ナブッコ:ダリボール・イェニス
アビガイッレ:スザンナ・ブランキーニ
ザッカリア:ヴィタリー・コヴォリョヴ
フェネーナ:ニーノ・スルグラーゼ
イズマエーレ:アレッサンドロ・ファントーニ
ベロの大祭司:ジャンルーカ・ブレダ
アブダッロ:アントネッロ・チェロン
アンナ:フランチェスカ・ミカレッリ
第1幕ナブッコ登場のシーン
まず驚いたのは、前日にドン・ジョヴァンニを歌ったばかりのダリボール・イェニスが今夜も題名役で登場したことでした。プロ野球のピッチャーほどではないにせよ、オペラの主役級歌手も連投はせず、中2日~3日以上登板間隔をあけるのが普通だからです。
しかも、まったくタイプの異なるヴェルディのドラマティックなバリトン役を立派にこなしてみせたのですから。2009年のスカラ来日公演《ドン・カルロ》で彼がロドリーゴを歌うのを聴いた時には、非常にうまいもののヴェルディ・バリトンに要求される悲劇的な重厚さが足りないと感じたものですが、今回はそうした不足感もありませんでした。
このアレーナで過去に聞いたナブッコの中で、カップッチッリは別格として、ブルソンやヌッチと比べても遜色なく、ガザーレやヴラトーニャよりは上と感じられる堂々たるバビロニア王だったと思います。
他の二人の主役、アビガイッレのブランキーニとザッカリアのコヴォリョヴはともに初めて聴く歌手ですが、こちらも不足感なし。ブランキーニは、アジリタのキレがあるうえ、強いドラマティックな声の持ち主ながら容姿も合格点。ウクライナ系スイス人のVitalij Kowaljow(ネットで調べたところ「コヴォリョヴ」と読むらしい)も深々として豊かな真正のバス声で高音にも伸びがあり、本格的な主役バス。1968年生まれとのことですから、それほど若くはありませんが、近年になって世界の一流歌劇場で活躍するようになっているようです。
フェネーナのスルグラーゼは2007年にも同じ役で聴いたことがあります。メッゾにしては声に重みがありませんが、強くて素直な美声でコンプリマリオ(準主役)としては手堅い存在です。イズマエーレのファントーニも悪くありませんでした。
ブルガリア生まれの指揮者コヴァチェフは、近年ヴェローナでは常連。特に今年は、いつも最も多く登場していたダニエル・オーレンよりも出番が多いようです。ドイツで勉強したもののオペラ指揮者としてのキャリアはもっぱらイタリアで積み重ねてきたようで、イラリアオペラの様式感をしっかり身に着けた職人的マエストロです。
オーレンほどの派手さはありませんが、このオペラのアンサンブルの聴きどころ、たとえば第1幕のアビガイッレ、イズマエーレ、フェネーナの三重唱、ナブッコ登場後のコンチェルタート、第2幕のフィナーレ、第3幕の有名な合唱<Va, pensiero…(ゆけ、わが想いよ)>、第4幕のフィナーレなどは非常に美しく聴きごたえがありました。
スザンナ・ブランキーニとダリボール・イエニス(第3幕第1場)