肋骨を折って知るトリスタンの苦悩
一同(さすがの強者共も) エーッ!
手塚 第3幕で「トリスタンが包帯をしているような感じでトリスタンを聴くのはどうも……」だって。第三幕のトリスタンは傷を負って包帯から血を流しているんですよね。NHKホールの客席の階段は幅が一定でなくて危ないなって思っていたんですよね。
池原 ワシントンオペラで、「トリスタン」とか「パルジファル」をやっていたときに、以前シュターツオパーで音楽監督をやっていた東ドイツ出身の指揮者ハインツ・フリックが指揮していて、彼の指揮はすごくテンポが早いので、ドミンゴが出た「パルジファル」なんかでもあっと言う間に終わっちゃうんです。
手塚 「パルシファル」があっという間に終わっちゃうって画期的ですよね。もともと相当タラタラした作品なんだから・・。
池原 だけどあの「パルシファル」、ワシントンオペラであの年一番お金がかかってたんだよ。あと森麻季ちゃんが出てて。
T女史 フジテレビの黒岩祐治さんが彼女の事を大好きですよね。
手塚 2001年の東京のオペラシーンで印象的だったのは何ですかね。
井上 私が全部観たのはメトロポリタンの来日公演かな。仕事の関係でリハーサルまで含めて。
T女史 私は、それ(メトロポリタン)と、意外に良かったのが新国立の「ドンカルロ」でしょうか。
新国立劇場がけなされているのは、音響がよくないからだと思うな。正面にしか音が通らないみたいで。
手塚 ヨーロッパの歌劇場も、基本的にはオーケストラシートの方が音がいいと思うけど。でも今は土間の席(オーケストラシートという)は結構値段が高くて、金持ちが座るんじゃないの?パリオペラ座の「こうもり」をテレビで見ていたら例の酔っ払った牢番のセリフで、「やっぱりオペラはいいよなあ、普通なら貴族が上に行って平民が下にいるのに、オペラだと貴族が下の方に座ってらあ」というのがあったよ。
T女史 ボックス席は個室感覚で気分がいいということで。
手塚 確か新国立劇場は、音を良くするために本来なら3000席弱にするつもりだったのを2000席ぐらいまで座席を削ったんじゃなかったでしたっけ。営業的に成り立たなくなることを覚悟で。
池原 山崎努があそこで「リア王」を演じた時の日記みたいなのを読んでたら、あそこは正面にしか声が通らないとか、天井が筒抜けになっているのでよくないとかで、結局マイクをつける必要があったって書いていた。「この劇場はミュージカル向き」だと書いてありましたね。、METもオーケストラの音の方が客席に良く届くのでそれが嫌だという歌手がいるらしいけど、それにちょっと似てるかも。
T女史 やっぱりウイーン国立歌劇場にしてもスカラ座にしても、ヨーロッパのオペラ座のサイズの方がリーズナブルだと思う。METは大き過ぎる。あれで声が通るというのはすごい大変なことですよ。
手塚 そこが商業的に成立させようとするところと、国がお金を出して貴族の楽しみにしているところとの違いなんじゃないかなぁ。日本はその中間の中途半端なところをとっているのでは。
この座談は2002年正月に行ったものです。