黒人が歌って、何が悪い
T女史 「蝶々夫人」はあの時代の話だから許せるけれど、「ミスサイゴン」は許せない。
池原 ピンカートンを殺してから自殺するというのならわかるけど(笑)。まああれは、日本女性がオペラでメジャーになっていくために仕方がなかったということで、「プッチーニさんありがとう」と。東敦子さんのためにあったんだということです。
手塚 じゃあ黒人が主役のオペラがないのかな。
池原 「アイーダ」があるでしょう。「サムソンとデリラ」とか。
T女史 「ポーギーとベス」もあります。
手塚 「アイーダ」だけはレオンティン・プライスでも歌えたと。
T女史 「ドンカルロ」のDVDはエボリ公女がグレース・バンブリー。黒人でも違和感ないですよね。
手塚 「薔薇の騎士」なんて黒人歌手にはつらいものがあるよね。その点ワーグナーはみんな伝説や御伽噺だから誰が歌っても変じゃない・・。
池原 ジェシー・ノーマンも、1989年当時は若くて。それが、ちょっと前に「パルジファル」でクンドリをやってたんだけど、もうトドみたいな感じで、全然動かないの。ただの緑色の塊で。その時はドミンゴがパルジファルだったんだけど。
井上 ドミンゴはこの1年間ぐらいで痩せたみたいですよ。毎日最低1時間ジムに通って。あの歳であのスケジュールをこなして、テナーを歌い続けるなんて大変なことですよね。
手塚 あの歳でテナーを歌い続けること自体、とにかくすごいと思うよ。声帯って年取るとたるんでくるんじゃないのかな?
池原 去年だか、METで歌うときに半オクターブ落として歌ったという話があるそうですね。
手塚 そんな器用なことできるのかいな? リサイタルだったら、伴奏が下げて弾いてくれれば音を落として歌うこともできるんだけど、オペラとなると全員が下げなくてはいけなくなるから(笑)。
今年来日して本当にオテロを歌えるのかなあ。
池原 ドミンゴは去年の12月にスカラ座でオテロを歌っていたんだけど・・、「声が出てなかった」って友人が送ってくれたクリスマスカードに書いてあった。
手塚 演技はすばらしい。イヤーゴとやり合う心理表現という点ではそうでしょうね。
T女史 話を聞いてると、やっぱりワシントンオペラの来日公演行きたくなってきた。
池原 ワシントンオペラでは、数年前にホセ・クーラがデビューして、ドミンゴが指揮に回ったので、「もう世代交代」という雰囲気がありますけどね。
手塚 T女史さんはワシントンにいるときも、「ドミンゴは聴いとかないと、もう聴けなくなるから」と言ってたけど、彼はぜんぜんまだ歌っているんだから、それは自分が聴きたい時の言い訳にしか過ぎないね。
T女史 何年か前に、「今日のサムソンはホセ・クーラは歌いません」というアナウンスにブーイングして、その後「ドミンゴが歌います」というのを聴いて、「わーい」って喜んでた人もいましたよ (笑)。
池原 私はオープニングの日に、ホセ・クーラのおしりがまくれて丸見えになっているのを見た。サムソンが誘惑されるシーンで2人が寝転がってるんだけど、私は気になって、ただお尻だけを観ていた。「ホントにこの人、ジムのインストラクターをしてたのかな」と(笑)。
この座談は2002年正月に行ったものです。