オペラは"総合芸術"だからこそ
その後NHKホールができて、公園通りや原宿の方に歩いて帰るのは悪くないなと。もともとデートコースじゃない。しかし雰囲気は良いんだけれど、NHKホールはでかすぎて音が悪い。なにしろ紅白をラスベガス並にやるために設計したホールだからね。サントリーホールができて、場所もいいしホワイエでシャンパンなんか出し始めちゃって「これは両方兼ね備えたいいところができたな」と思ったんだけれど、残念ながらオーケストラコンサートしかやらない。「新国立劇場や文化村、都立芸術劇場はどうだろう……」と。
結局オペラをやるのは、NHKホールと文化会館と新国立劇場。この中での選択なんですかね。通に言わせると神奈川県民ホールが一番いいという話もあるけど。
……なんか雰囲気がないよね。
T女史 県民ホールですよ、県民ホール。所詮。
手塚 オペラが"総合芸術"というのは、オペラの前の雰囲気と、オペラをやっている最中の雰囲気と、休憩時間の雰囲気と、それから終わってからどういうところで飲んだり食べたりして家に向かうかということです。
T女史 女性の場合は何を着ていくかも大切です。
手塚 せっかくきれいなものを着ているのに、その後上野の「じゅらく」辺りの裏通りで飲んだおっさんたちと電車に乗ろうかという気にはならないわけですよ。
池原 車で行くんだったら別なんだけど。
手塚 やっぱりヨーロッパは、こちらが旅行者で行ってるからなんだけど、適当にそのへんのホテルに泊まっていて、ちょっと毛皮かなんか肩の上に羽織ってオペラ座に出かけて、終わったらそのへんのバーやカフェで飲んで……というのができるから。総合的に楽しめますよね。
T女史 行って思ったんだけど、スカラ座のようなところは、観光客があんまりいないから、女性の服装がバシっと決まってますよね。突拍子もない服を着ている人はいない。その点METはひどいじゃないですか。イブニングきている勘違いがいるかと思ったらジーンズ着てる人がいたり・・。ミラノはさすがだなと思いました。
池原 METはひどいですよ。
手塚 少なくとも洋服の世界のルールはヨーロッパの人間が決めているわけだから・・。
ウイーンのニューイヤーコンサートに行って、蝶ネクタイを締めている男性は、全員日本人だから(笑)。なぜかわかる? ニューイヤーコンサートというのは午前中にスタートする真昼間にやっているコンサートなわけ。夜みたいに蝶ネクタイをしめてタキシードを着るというのはルール違反なんです。演奏してる楽員たちが、普通のジャケットをしてネクタイを締めているのにですよ。
だからまよったら女性は和服を着ていくのが一番いいんです。何とでもごまかしがきくから。イブニングドレスと昼間のドレスの区別をつける必要がない。男で、楽友協会にブラックタイで行ったり、下手するとホワイトタイで行ったりすると、「アホじゃないか」という話になっちゃう。そういう意味ではほんとに和服っていいよね。
池原 きものなら豪華だし。日本人では昼からロングドレスを着てる勘違い女性なんかがいますが、それよりずっとよい。でも私きもの着れないんだけど・・・。普段の半分しか歩けないからイライラするしー。
この座談は2002年正月に行ったものです。